「ベルリンは晴れているか」レビュー!戦後ドイツの描写によみごたえあり!

林檎のお茶ミステリー・サスペンス
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今回レビューするのは「ベルリンは晴れているか」。人気の高い一冊を手に取ってみました。

最初にいってしまうと、ミステリーとしては「いまひとつ~まあまあ」といった評価になります。

どちらかというと興味深かったのは、戦後まもないドイツの不安定な状態と、そこで生きていくしかない敗戦国の人間たちの葛藤や悩みです。

リサーチに裏付けられた戦中・戦後のドイツの様子に迫力があり、舞台設定や人物のドラマが印象に残る作品です。

犯人などのネタバレはしていませんが、話の内容に触れているので、まだ読んでいない方はご注意ください!

「ベルリンは晴れているか」

著者:深緑 野分
出版社:筑摩書房
発行年:2018年

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「ベルリンは晴れているか」あらすじ

舞台は戦後すぐのドイツ・ベルリン。戦勝国によって分割され、ドイツ人は敗戦国の人間として弱い存在となっている。

主人公は17歳の少女・アウグステ。かつての恩人であるクリストフが殺害されたことで、アウグステも疑われる。

ソ連軍人の命令で、クリストフの甥にあたる人物を探すことになるアウグステ。わずか数日の間に、冒険のような日々を過ごし、ついに甥にあたる人物を見つける。

最後にあかされる犯人の姿、その経緯。アウグステは戦後に新しい人生を見出せるのか。

戦後間もない混乱に満ちたドイツでの暮らしを描きつつ、話は進む。

アウグステと「エーミールと探偵たち」

ガーベラと本

本好きのアウグステという設定がいい。これだけで愛着がわきます。

アウグステにとって、家での暮らしや両親がいたころの思い出の象徴になっているのが、ケストナーの「エーミールと探偵たち」です。

日本でも児童文学作品として親しまれてきた一冊ですが、アウグステにとっては、外国語である英語を学んだ本であり、知人・ホルンからもらった本であり、自由の象徴ともいえる一冊です。

古くなってもずっと大事にしている一冊の本。まさしく一冊の本が主人公の核になっているのです。

たったこれだけですが、私にとっては印象深いポイント。私も「エーミールと探偵たち」好きなんです。主人公の造形として、印象深いアイテムになっています。

不器用なアウグステの一家

フルーツ

アウグステもその両親も善良でまじめで、そして不器用な一家です。学校の友達のなかには、ナチスを支持して先生に褒めてもらう生徒もいるのに、アウグステにはそんな態度は無理。

読書が好きでも外国語の本を読むことは禁止されていて、思うように本も読めない暮らしに窮屈さを感じるアウグステ。

アウグステは、器用に時代を生きられるタイプではなかった。それは両親も同じ。両親はヒトラー政権を支持していなかったため、のちに逮捕されてしまう。周りの活動家の友人たちも寝返ったり、逮捕されたりしていく。

少しずつ変わっていく日常。否応なしに国家の決めた仕組みに適応させられる無力さがじわじわとアウグステとその一家に近寄ってくる。

私にとっては、ミステリというよりも、主人公とその周辺が変わっていく様子にドラマを感じて、読み進めることができました。

傷を抱えて生きる戦後の人々の描写が印象深い

新聞と鍵

ミステリーとしてもまあまあ楽しめるのですが、私が惹かれたのは戦時下のドイツにおいて、少しずつヒトラーへの支持が強まり、窮屈な社会になっていった描写がひとつ、ひとつ積み重ねられるように描かれているところでした。

隣人の障碍者の女性とその弟、隣家のユダヤ人一家、それぞれの暮らしの変化やまわりの態度の変わりようなど、戦時下における市民の変貌ぶりを順に描いている。

アウグステは確かに善良な子だけれど、時代に立ち向かえるようなタイプや立場ではない。

ユダヤ人が迫害される様を見て、心を痛めることはあっても、かばいきれるような強さや力があるわけではない。

どんなに窮屈でも社会にあらがえない無力さは、同じ状況にあれば、おそらく誰もが感じるでしょう。

本作に出てくる人物は、全員が戦争の傷や過去に苦しんでいて、つらい記憶を持つ人ばかりです。

たとえばカフカ。こっけいなメイクや格好でおどけて、馬鹿にされる役を演じてきたけど、それは戦争中にナチスのプロパガンダ映画で役立った能力です。

あらゆるものが戦争というシステムの中に組み込まれ、服従を強いられる。いい加減で不真面目で、いつも冗談ばかり言っているカフカという元役者は、狂言回しとしてでてきて、そして最後にはアウグステの良き友人となっています。

カフカにも、忘れがたい戦争の過去があります。冒頭とラストを比較して、もっとも変化した人物と言えば、カフカでしょう。

ラストには、今後の人生について迷っていることをアウグステに打ち明けるカフカがいます。戦争という大きな災厄を生き延びた人たちが、今後どうなっていくのか。最後まで読んだ読者にとって、登場人物のその後が気になります。


まとめ:ラストにはちゃんと希望がある

アイビー

アウグステの近所に住んでいて英語を教えてくれたホルンという人物が、刑務所送りになったにもかかわらず、一応生き延びていたらしく、アウグステのお見舞いに来そうな気配で話は終わります。

つらい出来事やショックばかり続いていたアウグステの将来に、希望の持てるラストになっていると思います。

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