『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』宮崎アニメの原点を知りたい人におすすめ!

読書とお茶 児童文学
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ジブリ作品など、宮崎駿氏のアニメ作品は私も大好きだし、長年のファンのかたも多いですよね。

実は宮崎作品の土台には、いろんな児童文学の要素があります。

今回ご紹介する『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』を読むと、宮崎作品の土台の部分がちょっと見えてきますよ!

ファンなら気になる、宮崎作品の根っこの部分を知ることができる一冊です。

『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』

著者:宮崎駿

出版社:岩波書店

出版年:2011年

宮崎駿氏による読書案内

豚のミニチュア
『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』は映画監督・宮崎駿氏による読書案内。本書は2部構成になっています。

第1部では、「岩波少年文庫」からおすすめ、またはお気に入りの50冊を選定。

監督が選んだ文庫の1冊ごとに、どんな思い出があるのか、短いコメントとともに紹介しています。どの本のどんな点が魅力なのか、どんな点に影響を受けたのか。

中には自身がアニメ化した作品もあり、アニメ化するときはどんなことを考えたのか、なども書かれています。

一部を紹介すると「星の王子さま」「チポリーノの冒険」などは、監督の映画や絵のスタイルに大きな影響を与えた作品です。

「ハイジ」のように、かつてアニメーションにした作品の原作も、紹介されています。

宮崎監督作品には、児童文学を土台や原作にしてつくられた作品も多いですよね。

自分たちが映画やテレビアニメの土台にした作品群も本書の紹介には含まれているので、単なる一読者のおすすめではなく、「どうやってこの作品を魅力的な映像にしようか」といったクリエイティブな視点が混ざっています。

アニメーション監督ならではの着眼点を持ちながら、子供たちにはこれを読んでほしい、といった紹介となっています。

監督インタビューにはヒントがいっぱい

林檎

第2部は、監督のインタビューをもとに構成された文章です。

監督と本との出会い、なぜ児童文学が好きになったのか、文章だけでなく挿絵がどれだけ大事だったか、などを知ることができます。

監督の言葉には、印象的な言葉がいくつもあります。

本そのものが貴重だった時代から、漫画やゲームがあふれかえり、あらゆるものがコンテンツになりうる時代になって、かつてとはものの見方や考え方そのものが変わってしまいました。

目の前にある現実を自分はどう見るのか、その点すらおろそかになってしまった現代についても言及しています。

この世界をどういうふうに受けとめるんだ、取り込むんだというときに、自分の目で実物を見ずに、かんたんに「もう写真でいいんじゃない」となってます。(略)
ほんとうに自分の目がどういうふうに感じているのかということに立ちどまらなくなっています。

『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』 宮崎駿/岩波書店/2011年/P131

これは、私にも思い当たるふしがあります。写真や動画を手軽に撮影し、あちこちに投稿できるようになったけど、その一方で変わってしまうものや失うものもあるのです。

どんどん便利で簡易に技術を使える世の中になる一方で、確実になにかを失っているのですが、失ったものについては、たいていの人間はずっと後になってから気付くのかもしれません。

今がどんな時代になっているのか、考えるヒントとしての言葉がたくさんあります。

大地震の後の世界に向けてのメッセージ

サボテン
本書の際立った特徴は、東日本大震災の後に書かれた「三月一一日のあとに 子どもたちの隣から」が入っている点です。

大きな災害の後に、果たしてどんな作品を作っていくのか、監督にも大きな問いになったのでしょう。

生きていくことが困難になった時代のなかで、何を作って発信するのか。このあたりの問いがあるのが、宮崎氏の作品への誠実さではないかな、と思っています。

「子供たちに見せる作品」という柱が、宮崎作品にはずっとありました。

生きていくのに困難な時代の幕が上がりました。この国だけではありません。破局は世界規模になっています。おそらく大量消費文明のはっきりした終わりの第一段階に入ったのだと思います。そのなかで、自分たちは正気を失わずに生活をしていかなければなりません。

『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』 宮崎駿/岩波書店/2011年/P151

どんなに困難な社会になっていっても、生きていく途中で、大事な作品に出会えるのは幸運なことです。

これからも悲惨な出来事がたくさん起こるとしても、どこかで(できたら子供時代に)出会っておきたい作品の一例が、本書のなかにはたくさん、示されています。

まとめ:宮崎映画の原点が見える児童文学

人形

宮崎駿氏の作品の中にある「この世の中は生きるに値する」という視点のベースには、岩波少年文庫をはじめとした、児童文学の世界があるのでしょう。

児童文学の視点が、宮崎作品の世界を支える哲学といっていいと思います。

現実の世界がどんなに汚くゆがんでいても、手作りのアニメ―ションのなかには美しい世界を描き、子供を主人公にした作品を作り続けた演出家です。

宮崎監督の考えの原点や、作品に影響を与えた児童文学の一端を見てみたい、という人の関心に応えてくれます。

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