「六人目の少女」複雑なストーリーのラストが怖い!

赤いハート型の皿と鍵 ミステリー・サスペンス
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「六人目の少女」はイタリアの作家であるドナート・カッリージのデビュー作です。数々のミステリ賞を受賞した作品だそうです。私が手に取ったのは偶然ですが、わりと楽しく読むことが出来ました。

アメリカのドラマで「クリミナルマインド」という人気シリーズがありますが、雰囲気としては近いかもしれないと思います。

犯罪者と対峙する捜査機関をあつかったミステリは、どこの国でも人気があるんでしょうね。

ネタバレを含んでいるので、ご注意ください。

「六人目の少女」

著者:ドナート・カッリージ

翻訳:清水 由貴子

早川書房 2013年

著者ドナート・カッリージについて

ドナート・カッリージはもともとドラマなどの脚本を手掛けたキャリアを持っています。といっても、私はそうした映像作品を見ていないのですが・・・。

「六人目の少女」のなかでも、続きがすごく気になるところで次の展開に変わっていく手腕が巧みです。

読者を惹きつけ、一瞬も飽きさせることのないメリハリのある作劇には、脚本家としての資質が発揮されているのかもしれません。

私が著者の作品を読むのは、2009年に発表されベストセラーとなったこの「六人目の少女」が初めてなのですが、同じように、この作品が入り口となったという読者は多そうですね。

主人公ミーラについて

世間を騒がせている連続誘拐事件の被害者は5人だったはずなのに、じつは6人目の少女がいることが判明。

生存しているうちになんとか6人目の少女を救出したい、ということで行方不明の子供の捜索のプロであるミーラが特別捜査班に加わる、という展開です。

「六人目の少女」の主人公であるミーラは、典型的な一匹狼タイプのヒロインです。

単独で行動し、責任感が強く、使命のためには努力を怠らない。しかし、やや自分を過信してしまって、失敗することもあるタイプ。

また、ミーラは「他人に共感することができない」という性格で登場していることも大きな特徴です。

もちろん、それなりの理由はあるのですが、冷めた性格ゆえに他者と協力することが難しい。また、それを自分でも欠点として理解はしている、といった人物になっています。

ミーラの孤独な性格にある程度共感できるかどうか、で読者として話についていけるかどうか、左右されそうです。

今までにあんまり他人と気持ちを通わせたことのないミーラにとって、事件を追う間に気になってしまうのが、犯罪学者であるガヴィラ博士。

考え方や態度に惹かれていく様子がちょっと微笑ましい。ミーラにも幸せな感情を味わってほしい・・・と思いつつ読んでいったものの、ラストは必ずしもハッピーエンドではないのです。むしろちょっと怖いくらいの終わり方。

ガヴィラ博士とはお互いに惹かれ合うのに、その直後にはガヴィラ博士がどんな人物かわかってしまう・・。やっと誰かを愛せると思ったのに、その後の展開には驚きもあって、ちょっとミーラが気の毒になってしまいます。

ミーラの同僚たちの描き方について

サラ・ローザという女性の同僚が最初から最後までけっこう嫌な人のままでした。主人公ミーラとは最初はケンカしていても、そのうち打ち解けるのかな、と思っていましたが。

このあたり、サラという人物にもう少し苦悩とか逡巡とか、悩みの姿があってもよかったのではないかな、と思います。いまひとつ掘り下げが足りないようにも思います。

ボリスという青年は、とても好感の持てる人物として描かれています。ミーラに朝食を持ってきてくれるなど、気のいい仲間といった感じです。

また孤児院で亡くなっていた少年のために自腹で葬式を用意しようとするなど、細かい描写で性格をうかがわせています。

ステルンはベテラン捜査官だけあって、落ち着きのある態度でリーダー的な役割を果たしています。長年一緒にやってきた同僚たちとの関係が壊れていくプロセスは、ステルンにとってすごくつらいものだったでしょう。

同僚たちともいえる特別捜査官の配置のバランスはいいのですが、もう少し掘り下げて描いたほうがよかったかな、という不満はあります。

「六人目の少女」の不満な点

不満な点として、とても気になるのが、中盤に出てくるニクラという元修道女・・・。不思議な能力を持っている、ということで捜査に協力してくれるのですが、霊能者みたい。

それまでDNA鑑定が、コンピューターの分析が、と現代的な捜査をやってきたのに、ニクラの登場はちょっと作品から浮いている感じがします。

ここはできるだけ科学的な捜査方法にこだわって描いてほしかったな・・・。

話がやや複雑すぎるのも難点とは思います。過去の事件、現在追っている事件、そして謎めいた手紙のやり取りなど、いろんな情報が挟まれているので、ついていくのがやや大変です。

「六人目の少女」の怖いラストについて

一応、話はまとまる方向に行くのですが、めでたしめでたしのラストではないあたり、ちょっと怖いです。

徹底して主人公ミーラの視点で描かれながら、ラストシーンだけは、ミーラの目では見ることのできない、いや「実は垣間見ていた」世界の不条理を仄めかす。

微かに挟み込まれた日常や平穏さも、薄皮一枚剝いだところにある不条理をより強く感じさせるスパイスとなっており、複雑な余韻を残す描写でした。

犯人がつかまって、事件は綺麗に解決・・・・という展開ではないので、すっきりした読後感ではないです。

全体として中盤あたりまでは面白いのですが、ラストで賛否が別れそうな作品です。

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