久しぶりの更新です。たまに訪問してくれた方、ありがとうございました。戻ってきたよ!!
『霧のむこうのふしぎな町』はジブリ映画『千と千尋の神隠し』に影響を与えた作品としても知られています。
そのままのアニメ映画化は断念したらしく、影響を与えたのはまさに主要なキャラの骨組やあらすじだけですが。・・・原作だと思って読むと「?」って思うかも。
ストーリーはある少女が現実とは少し違う世界に迷い込み、しばらく過ごしたのちに帰ってくる、典型的なファンタジーの展開です。
『霧のむこうのふしぎな町』のレビューと「めちゃくちゃ通り」の役割を考えてみます。
挿絵:杉田比呂美
出版社:講談社
発行年:2006年
あらすじ
主人公は小学6年生のリナ。夏休みにやってきた町で、霧のむこうにある「めちゃくちゃ通り」と言われる町に迷い込んでしまう。
ピコットばあさんの下宿屋で暮らす間、町にある店で働くことになったリナ。風変わりな住人たちとのやり取りが楽しい一冊です。
『霧のむこうのふしぎな町』の面白さのポイント
今回読んでみて、そのままのアニメ化はなかったけど、これはこれでとても良い作品だと思います。面白さは以下の点だと感じました。
- 主人公が不器用で別に美少女ではない
- 屋敷の住人たちの奇妙な能力
- 「めちゃくちゃ通り」の設定の面白さ
- 「めちゃくちゃ通り」と現実の続き具合・・・本当に必要な物がある人など一部のひとだけが迷い込んでいく
「めちゃくちゃ通り」と現実の世界の関係
「めちゃくちゃ通り」の中には、わずか5軒だけ店があり、リナは順番にいろんな店で働くように屋敷の主人・ピコットばあさんから言われます。屋敷にいる人たちは下宿させてもらう代わりに、それぞれの能力を生かして働くという条件になっているのです。
お菓子屋、本屋、せともの屋など、一見すると普通っぽいお店の並びです。でもそこに住んでいる人たちは、みんな魔法使いの子孫なのです。現実世界の人たちはたまにやってきて、必要なものを手に入れると、すぐに去っていきます。
「めちゃくちゃ通り」には、持ち主を求めているアイテムがいろいろとあるのです。例えば、船具屋に置いてあったランプを求めて、船長さんが迷い込んできたように。
そしてお金を払おうとすると、店員からは断られるのです。「もともとあなたのものですから」といった感じで。
ここからわかるのは、「めちゃくちゃ通り」は、現実の世界とうっすらつながっていて、たまに迷い込んできてしまう人たちがいるということ。そしてその人たちは必要な物を手にして、また去っていくこと。ずっとはいられないんでしょうね。
欲しい気持ちは強くて、でもどこで手に入るかわからない人が、気持ちの強さのせいでなにかの拍子にふらっとやってくるのかもしれないですね。
また来たいと思っても、「めちゃくちゃ通り」に来ることは難しいでしょうから、一期一会になっているのではないでしょうか。
働くことが修行になっている世界のリナ
リナはもともと、「めちゃくちゃ通り」のピコットばあさんから招待を受けて来ているので、かなりの例外的な存在であることもわかります。
働くことで、次第に変わっていくリナ。堂々とした雰囲気になっていくというか、たくましくなっていきます。
どの店にもそれぞれ、クセのある面白い人物が居ますが、印象深かったのは本屋。
「船具屋から本を回収してきて」と言われて船具屋に行くリナ。船具屋にいるオウムのバカメは口が達者で、たいていの場合、周りの人間の方が負けてしまいます。
しかしリナはバカメとの会話をして、本を取り返すのです。バカメと張り合うばかりでなく、バカメのいい点を褒めたのがよかったのかもしれません。
本屋での仕事が終わるときに、「ご褒美に一冊本をあげる」と本屋さんから言われてリナが選ぶのが、『ロビンソン=クルーソー』。
本当に欲しい本は別にちゃんとあるのだけど、オウムのバカメにあげるために、バカメが好きな本を選ぶリナ。けっして器用ではないけど、一生懸命な姿を見ているうちに、読者もだんだんとリナを好きになっていくのです。
リナにとっての「めちゃくちゃ通り」は、ちょっとした修行の場になっています。最初は「もう帰りたい」と思っていたリナですが、現実とは少し違う世界で過ごすうちに自立していくのです。
リナと「めちゃくちゃ通り」の関係
リナはお父さんに勧められて「めちゃくちゃ通り」へとやってきました。実はお父さんも、少年のころに「めちゃくちゃ通り」にやってきたことがあるのです。
リナのおじいさんとピコットばあさんの代から付き合いがあったことが終盤で分かってくるので、つまりリナの一族は代々、夏になると「めちゃくちゃ通り」に招待されていることになります。
ピコットばあさんとリナのおじいさんのつながりは、推測するしかありませんが、ピコットばあさんにとっては、とても大事な思い出のひとなのでしょう。
リナに対してなんだかんだ意地悪を言っていたけど、最後にはリナをちゃんと認めてくれるピコットばあさん。ピエロの傘の使いかたも効果的です。
最初はリナへのお迎えとして登場します。そしてラストではまた次回、「めちゃくちゃ通り」にやってこられるように、ちゃんとリナに傘を貸してくれるのです。
一時期だけ異世界で過ごして、また現実に戻るのですが、そのときには前とは違う世界を知っている子供になっている。ファンタジーのよくある図式ですが、「めちゃくちゃ通り」の場合はファンタジー色が強すぎず、現実とはちょっと違う奇妙さが楽しいのでしょう。
いつかはリナも成長して、「めちゃくちゃ通り」に来ることはなくなるでしょう。そしていつかリナにもし子供ができたら、その子がさらに「めちゃくちゃ通り」にやってくるかもしれない。そんな時間の流れの中で代々引き継がれていく思い出を考えると、なんだかちょっと切なくなってしまいます。
まさに子供時代にだけ行くことができる世界であり、本当に短い時間ですが、だからこそ貴重だと思うのです。
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