星新一さんのショートショートは小学生のときに、教科書などで読んだ記憶があります。
正直にいうと、当時の私にはあんまり良さが分かりませんでした。(長編小説がすきだったせいもありますが・・・)
でも、いま大人になってから読んでいるほうが面白い、と感じます。私が、短い文章のなかにこめる情報量の絞り方とか見せかたを、すこし理解できるようになった、ということかもしれません。
今回、手にしたのは、「気まぐれロボット」。いずれも3頁程度の短篇が収録されています。すぐに読めるし、どこから読んでも面白い話を見つけることができます。
「きまぐれロボット」
著者:星新一
出版社:角川書店
初版発行:1966年
「きまぐれロボット」のなかで面白かった話
いくつか、興味深かった話を取り上げてみます。
『夜の事件』
人間そっくりにできた女性ロボットを、あの手この手で脅そうとするエイリアン。
怖がらせようとしているエイリアンに向かって、ロボットは「ありがとうございます」など決められたセリフを返すのみ。その差がコミカル。
エイリアン側は、ロボットをてっきり人間だと思い込んでいるからこその可笑しさなのです。
ロボットは仕組まれた通りの応答を返しているだけですが、エイリアンからは未知の生命体として不思議がられます。認識のずれが笑いを誘う一篇。
『地球のみなさん』
異星からやってきた青年は、地球のみんなに優れた文明を提供しようとします。でも、地球の人間からは相手にされず、ついには変人として病院にかつぎこまれてしまう。
青年の話が本当と分かった後には、すでに手遅れ、もう異星との連絡を取る方法がわからなくなってしまっている。人間の思い込みがかえって取返しのつかない結果を招いてしまう、という皮肉のある一遍。
どの短篇にも、ユーモアや機知があって、最後にはくすっと笑ってしまう面白さがあります。
星新一のショートショートの魅力
星新一のショートショートの世界では、悪事が達成されることはなく、人間の欲や傲慢が招く結果を淡々と描いています。
楽をしたい、と思っている人は便利なアイテムを手に入れるけど、結果はそううまくはいかない。
ズルをして悪事を働こうとする者は、思わぬ落とし穴にはまって失敗して、結局悪いことはできない。
とても短い文章のなかで、予想していたことを裏切られることで生じる快感を感じさせてくれるのです。
まとめ:落語っぽいオチの面白さがクセになる
登場人物たちは真面目なのに、勘違いや思い込みのせいで失敗してしまう。あるいはコミュニケーションの不足や認識のずれのせいで、願うほどの結果にならない。
なんとなく、落語のような面白さがあるのが、星新一の作品の面白さかもしれません。
SFではあるけど、大仰でなくて、親しみやすい世界になっています。3頁くらいの短い世界のなかに、世の中の皮肉とか、人間の可笑しさとか、思い当たるふしがある話が展開されています。
手軽に読めるけど、ちょっとチクッとくるユーモアがクセになる世界です。
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