「アクロイド殺し」衝撃は犯人か結末か

ドライフラワー ミステリー・サスペンス
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「アクロイド殺し」はあまりにも有名で、ラストを知らずに読むことが難しいといわれる名作のひとつです。私は今回、初めて読みました。

この記事の途中以下、ネタバレがあるので、未読の方はご注意くださいね。

ネタバレせずに読める人は、ラッキー

「アクロイド殺し」のポイント

古い書籍

ヘイスティングズが不在

本作において、読者と名探偵をつなぐ役割を担うのは、おなじみのヘイスティングズ・・・ではなくて、舞台となる村の医師であるシェパード氏。

実はこの語り手がいつもと違うという点が、大きなポイントなんですが・・・。

それにしてもヘイスティングズが懐かしい・・・・。南米に移住したらしいんですが、帰ってきて・・・。

たまに違う人物が語るスタイルもいいのですが、やはりヘイスティングズのちょっと抜けた感じのある会話が懐かしい。

名探偵のそばには、凡人の代表格がいないとダメなんですよ。それはポワロも冒頭で語っている通り。・・・親密なんだろうけど、すごい言いようです。

「長い間、わたしのそばを離れたことがない友人でした。ときには、度肝をぬくほどばかなことをしでかす男だったんですが、それでも、わたしにとってはかけがえのない友人だったのです。その男の愚かさかげんまでが、今ではなつかしいくらいです。」
「アクロイド殺し」
アガサ・クリスティー/田村隆一訳
早川書房/1979年/P31

シリーズ3作目で引退しているポワロ氏

シリーズ三作目にしてすでに引退している・・。このあと、もっと長く続くシリーズなんですけど。

本作のなかでは、シェパード医師の近所に引っ越してきた謎の小男が、カボチャを作っているシーンが冒頭にあります。

ポワロが世間から引退して田舎でカボチャを作っているなんて、なんだか奇妙。でも、結局は事件がおこったら頼られて依頼されるんですが。

噂好きのキャロライン

本作のなかでもっともインパクトのある人物は、シェパード医師の姉であるキャロラインでしょう。

たいした根拠もないのに、「この事件は本当はこうなのよ」みたいに言い切る妙な自信がある人物で、村の噂話をなんでも聞き出し、広めてしまうという迷惑な人物です。

近くにいたらなんでもかんでも噂にして流してしまうだろうから、鬱陶しいことこのうえないのですが、とても印象に残る人物です。

「アクロイド殺し」の感想(ネタバレあり)

ネタバレ有りなので、まだ見ていない人はご注意ください。

 

タイプライター

犯人についての感想

手記の書き手であり、物語の描写担当であるシェパード医師こそが犯人だった、という点は発表当時から読者に対してフェアか、アンフェアか、という論争を巻き起こした点です。

読者は物語の語り手を信頼して最後まで読んでいくのに、実は犯人は・・・となると後で「フェアではない」という声が出ても無理ないかな、とは思いました。

当時としてはまだ珍しい手法だったこともあったため、というのもあるでしょう。

シェパード医師による手記は、最初はさらっと読めるのですが、たしかに再読すると、ああ、ここが犯行の手口だったのね、という風な描写になっています。

ここはいわゆる読者への裏切りなのですが、この裏切りを不快と取るか、むしろ心地よいと取るかで真っ二つに分かれるわけです。

私自身は推理小説では、できるだけ鮮やかに予想を覆してほしい、と思っているので「アクロイド殺し」のテクニックもひとつの手法だと思っています。

決着のつけ方の感想

話の終盤になると、ポワロはいつも通りみんなを特定の場所に集めて、推理を展開してみせます。

しかし、すぐには犯人を名指しせず、「明日になると警察に真相を知らせる」といった回りくどいことを宣言して結末を迎えます。

シェパード医師に姉・キャロラインという存在があったから、ポワロはシェパード医師を犯人としてすぐには逮捕しない、という判断に至ったのです。

噂好きの姉という存在によって振り回さている感のあったシェパード医師ですが、べつにお姉さんのことが嫌いというわけでもなく、姉が自分を弟として大事にしているのも一応、わかってはいる様子でした。

同時に、自分の行っていることが、噂好きの姉にバレるのではないか、と内心ではびくびくしていました。

しかし結局は姉の存在があったから、ポワロは姉に対して配慮してみんなの前で正体を暴くといった事態を避けてくれたのです。

弟を亡くした後のキャロラインはどうなるのか。もちろんショックは受けるでしょう。

ポワロは「控えめな態度を棄てて」手記を完成させることを勧めている。自分で手記を完成させて、はっきり証言を残すように仕向けています。

逮捕されてあれこれ暴かれるよりも、先に自分で決着をつけるようにしているわけで、キャロラインに配慮しつつも、厳しい措置を取っています。

冒頭のポワロの台詞で、印象深いセリフがありました。

「事実というものは、それ自体いかに醜いものであっても、それを追い求める人間にとっては、常に興味ある美しいものなのです。」
「アクロイド殺し」
アガサ・クリスティー/田村隆一訳
早川書房/1979年/P182

いいセリフだなぁ・・。ラストシーンまで読んでからだと、余計に印象深いですね。

まとめ

「アクロイド殺し」については犯人もさることながら、ラストの決着のさせ方がびっくり、という意見もありますね。

読み終わった後に、衝撃を味わえる一作です。

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