「青列車の秘密」レビュー!列車を舞台にしたもうひとつのポアロ作品

本と薔薇ミステリー・サスペンス
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ポアロシリーズの第5作にあたる「青列車の秘密」

列車のなかでおこった事件を解決するという点では、「オリエント急行殺人事件」のほうが圧倒的に有名かと思いますが、こちらも列車という細長い空間を使って、その狭い個室や食堂車などを舞台にしつつ、作品を展開しています。

今回はヘイズティングズは出てきません。残念・・・。でも代わりに素敵な助手が出てきますよ!

「青列車の秘密」
著者:アガサ・クリスティー
翻訳:青木久惠
出版社:早川書房
出版年:2004年

 

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「青列車の秘密」あらすじ

砂時計

ブルートレインと呼ばれる人気の豪華列車内を舞台にしたミステリー。

相続によって莫大な遺産を手にしたキャサリンは旅行中の列車の中で、富豪の娘であるルース・ケタリングと出会い、初対面ながら彼女の相談を受けることになる。

悩みを打ち上げて気持ちを切り替えたかのように見えたルースだが、目的地に着くまえに殺害されてしまう。

犯人として疑われるのは、ルースの夫であるデリク。同じ列車内で出会ったポアロとキャサリンは、ルース殺害の謎を解いていく。

「青列車の秘密」の名助手・キャサリン

食器類

本作でヘイズティングズの代わりにポアロの助手的地位を務めてくれるのは、聡明な女性・キャサリン・グレー。

その印象的なグレーの瞳がとても魅力的で、控えめながら芯の強い女性として出てきます。

キャサリンとポアロが出会うのは、ブルートレインの食堂車。

「探偵小説のようなことはおこらない」とキャサリンは言いますが、のちに本当に事件が起こり、キャサリンも捜査に参加することになってしまいます。

ポアロがキャサリンに言います。

「この事件は”わたしたちの探偵小説”ですよ。事件を一緒に捜査しようじゃありませんか」

「青列車の秘密」著者:アガサ・クリスティー/翻訳:青木久惠/出版社:早川書房/出版年:2004年/P150

なかなかのセリフではないですか。

キャサリンという女性の存在感によって、ロマンスとミステリーの二つの要素を楽しむことができます。

ネタバレ有りなので、まだ見ていない人はご注意ください。

「青列車の秘密」のネタバレ感想

途中までけっこうおもしろかったですよ。

途中までね。

今回の面白さは、ミステリーの謎解きと、キャサリンをめぐる恋愛模様がからんでいて、その展開が楽しかったんだと思います。

キャサリンの魅力とラストについて

本と花

私が本作で好きだったのは、ポアロとキャサリンの友人的な距離感。

たまたま列車内で出会って、興味を持った相手と一緒に事件を解決していく、そのプロセスで生じるパートナーシップの関係が心地よくて、そこが好きだったんだと思うのです。

ヘイズティングズよりずっと優秀な助手っぽいのですが、同時に作品中で、2人の男性(ナイトン少佐とデリク・ケタリング)から好意を寄せられるヒロイン的位置にもいるキャサリン。

魅力のある人物なので、できたらナイトンのような好青年が釣り合うんじゃないかな、と思いつつ読んでいました。

・・・が、それだけにキャサリンと、なにかと問題の多いデリクとの関係を予想させるエンディングはちょっとがっかりです。(ナイトンの正体がわかってしまうと、ナイトンとの関係はなくなるのですが。)

どんな女性も結局、あんまり良くない男性に外見などでひかれてしまう、という締めくくりは女性ファンからは不評のような・・・。

もうちょっとましなエンディングはないものかな、と思ってしまうのです。

被害者ルースについて

人形

キャサリンという女性の魅力は多く出てきますが、ちょっと気の毒なのは、被害者であるルースかな。

富豪の娘であるルースが、初対面のキャサリンに相談してどんな決心をしたのか、その点は明らかにされず、ちょっと描写不足かな、と思います。

初対面ながら打ち解ける女性2人の描写はいいと思ったのですが、ルースの内面がもう少しわかるほうがよかったかな。

このあたり、人物の内面をもう少し掘り下げて描いても良かったのでは、という不満になってしまうのです。

ブルートレインという列車の中には、キャサリンや探偵・ポアロのほかに、事件の被害者になるルースとそのメイド、ルースの夫であるデリク、デリクの愛人であるダンサーまで、さまざまな人が乗り合わせており、だれがだれを狙っているのか、複雑な展開を見せます。

またルースの宝石が盗まれるという話もセットになっているので、殺人と窃盗の2つの犯罪をめぐって、さらに話は複雑になります。

犯人はルースの愛人なのか、夫なのか。メイドが見たという列車内の男性は一体どちらだったのか。

宝石はだれが持って行ってしまったのか。いろんなポイントが絡み合い、読み応えはありますよ。

ナイトン少佐について

好青年すぎるくらいの好青年として描写されてきたのですが、最後に正体がわかって、ちょっとびっくりー。・・・私には犯人を見抜く力がない~(笑)。

ただ、犯人が明かされるあたりは、ちょっと都合よすぎるのかな。なんかちょっと無理やり話を展開している感があるので、ミステリー作品としての質はいまいちかもしれません。

ナイトンの正体が判明するあたりは、鮮やかな緊迫感があって、いいんですけどね。

意外にいい子だったレノックスについて

ライト

はきはきした感じでものを言い、ちょっときつい印象があるけど、キャサリンと意外にもいい友人になったレノックス。

レノックスとポアロが最後に海辺で会話をしていて、キャサリンの今後を予想させるラストで終わる点は、余韻があっていいと思います。

・・・キャサリンを追う相手がデリクでなかったらなーー。

旅行中のミステリーとロマンスの両方の要素が入っていて、いろいろと工夫はあるのですが、その工夫をいまひとつ生かし切れていないので中途半端な感じで終わってしまうのです。

まとめ:もう一息な列車ミステリー

本を持つ

いろいろ調べていると、どうもアガサ・クリスティー本人も「青列車の秘密」があんまり出来栄えが良くないとはわかっていたらしいです。

もっと面白くできたんでしょうね。

書いたときのクリスティーの精神状態などがいまいちよくなかったらしく、せっかく設定はいいのに、ちょっともったいない作品かな、と思ってしまいました。

クリスティー作品にも出来の良し悪しっていろいろあるみたいですね。「青列車の秘密」も、いくつかのレビューを見ていると、「最後に不満がある」っていう声を複数見ました。

設定はいいと思うのですが、うーん、難しい。でもポアロシリーズは長編で33作もあるので、気長に1冊ずつ読んでいってみましょう★

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