『Zの悲劇』はエラリー・クイーンの悲劇四部作の三作目にあたります。クイーンの作品中、一人称で書かれているのは本作だけ、などいくつかの特徴が目立つ作品です。
悲劇四部作の中では今ひとつ、評価が高くないらしく、普段と違うスタイルのために作品にやや乗れなかったファンが多かったのかもしれませんね。
私はわりと楽しく読むことができました。どの点が面白かったのか、また少し不満に感じた点なども含めて、レビューしてみます。
『Zの悲劇』
著者:エラリー・クイーン
訳者:越前敏弥
発表年:1933年
出版社:株式会社KADOKAWA
『Zの悲劇』の特徴はこんなにある!

- 章立てが演劇風でなくなった
- 主人公の一人称で書かれている
- 前作『Yの悲劇』から10年の歳月が流れている!
- ブルーノはニューヨーク州知事になっている(出番が少ない)
- いきなりサム警視の娘が登場!しかも美人
- ドルリー・レーンが年老いている(残念・・・)
- レーンの見せ場は主に後半のみ→レーンのファンには物足りないかも?
- ラストの犯人特定の推理はキレがあり面白い!
四部作の途中で、大幅に設定を変えてきた印象。
特に主人公が交代しつつあります。ドルリー・レーンは高齢化、次世代としてサム警視の娘・ペイシェンスが登場という点がすごく大きいですね。
新しい探偵になりつつあるペイシェンスというキャラクターを気にいるかどうか、で本作を楽しめるかどうか、がだいぶ決まりそうです。
ペイシェンスの魅力と弱点

- 父親より頭がきれる
- 探偵としての素質を備えている
- 行動力
- 美貌
- 負けん気の強さ
捜査現場で重要な事実に気づいても、女性であるために軽んじられるシーンなどもあり、男性社会に入っていく困難さを感じさせる部分もあります。
まだ若くて捜査経験は不足しているため、気負い過ぎて空回りしている感じもあります。やや生意気な口をたたいてしまうこともあるため、もしかしたら、好みが分かれるキャラかもしれません。
ペイシェンスには、観察力や論理的な思考能力もあるので、次第に周りも認めざるを得なくなるプロセスがあり、本作にはペイシェンスという新しいキャラクターの成長を描く面があります。
ただ探偵としてはまだ未熟なので、レーンが後半にかけて、サポートを行う感じになっています。この辺りも、次作につなげる構成になっているので、けっこう巧みに練られていたのかもしれませんね。
本作が世に出たのは、1933年。女性キャラが捜査現場に行って、推理を組み立て、解決までのプロセスを作る。当時にしては、なかなか斬新な設定だったのではないかな・・・とも思います。
もちろん時代の制約というのはあって、今となってはやや古い女性観が見える面もありますが、キャラ造形の点でも、なかなか興味深い作品です。
ドルリー・レーンとブルーノの関係が解決の鍵

本作では、とにかく、ドルリー・レーンの変わりぶりにビックリ!
前作まではあれほど若々しさを強調されていたレーンですが、よる年波には勝てず(涙)しかも病気にかかっている描写まで出てきます。
本作の中では、推理も途中まで今ひとつ冴えず、前作までと比べると、ちょっと残念かも・・・。挽回するのは、本当に最後の犯人絞り込みのシーンまでおあずけです。
本作の読みどころは、前作『Yの悲劇』のラストシーンで、心理的に大きな距離が開いてしまったブルーノ知事とのやり取りでしょうね。
容疑者が無実と推理できているにもかかわらず、証拠が無いばかりに、立証が出来ないレーンたち。結局、最後にレーンにチャンスを作ってくれるのは、知事の権限を持つブルーノなのです。
職務の責任もある一方で、長年の友情のためにギリギリまで譲歩してくれるブルーノ。読んでいて、ちょっとじ~んとするシーンです。
そして、死刑中止のために刑務所までやってくるブルーノ。死刑執行直前にレーンが犯人を消去法で割り出す手際は鮮やかで、緊迫感に溢れるシーンになっています。
まとめ:『Zの悲劇』の面白さのポイント

主人公交代の予感→『レーン最後の事件』への伏線
女性探偵ペイシェンスの登場
ブルーノ知事の決断→『Yの悲劇』からの繋がり
証拠がない容疑者の無実の証明
死刑執行までのタイムリミットサスペンス!
消去法による犯人特定の推理のキレ
けっこう盛りだくさんですな。犯人特定の緊迫感がおすすめなので、途中で止めずに最後まで読み切って欲しいです!
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