「ぼくの名前はズッキーニ」は大変気に入った作品なので、今回はちょっと気になった点をまとめてみます。観終わったあとのレビュー記事は以下をどうぞ。
「ぼくの名前はズッキーニ」
監督:クロード・バラス
出演:ガスパール・シュラター/シクスティーヌ・ミュラ/ポーラン・ジャクー/ミシェル・ビュイエルモーズ/ラウル・リベラ
製作国:スイス・フランス合作
公開年:2016年
ズッキーニという名前にこだわるわけ
「ぼくの名前はズッキーニ」というタイトル通り、主人公の少年は呼び名にこだわります。本名はイカール。でも母親が呼んでいたズッキーニという名前で呼んでほしいと言います。
「ズッキーニ」という呼び方は決していい意味の名前ではないようです。シモンが「イモ野郎」って呼んでいたときがあるくらいなので、侮蔑の意味が込められており、むしろ悪口に近いニックネームなのでしょう。
それでも本名よりも「ズッキーニ」と呼ばれることを望むのは、母親がつけてくれたから、という理由でしょう。
母親はやっかいな子供を馬鹿にする意味あいでつけているだろうから、とても切ないこだわりだと思います。
ズッキーニに対して優しい刑事のレイモンや、施設の先生たちがちゃんと「ズッキーニ」って呼んでくれるのがいい。子供の気持ちを尊重しているのがわかるから。
ズッキーニがお絵かきすきな点もいい
ズッキーニは最初から最後まで、ずっとイラスト描いていて、この点がとてもいいと思います。
孤児院に入ったあとも、ズッキーニは日々の出来事をイラストにしています。手紙にもイラストを同封しています。
まだ自分の気持ちを上手に言い切れない子供の内面を、具体的に伝える気持ちの表現として効果的なのです。
子供が自分の心情をながながと台詞で説明するのは、説明くさくなるし、白けてしまう。気持ちをあんまりうまく言語化できなくても、イラストなら本音が無理なく反映されますよね。
冒頭の壁のイラストにも注目!
冒頭では、壁一面にヒーローっぽいイメージの父親、メンドリ(意味は映画でわかる)・・・、そしてビール缶の上にたつ女性=怒っている母親のイラストまで描いてあります。
ズッキーニとその家族の状況を、ズッキーニが壁に描いたイラストを通して、冒頭で示していたのです。
家族の背景を示すのは、実は小さなところにもヒントがありました。冒頭で缶を拾い集めるズッキーニの片隅に、写真立てが映ります。
1階の室内の隅の写真立てには、赤ちゃんのズッキーニと、若いときのママ。そしてたぶん父親の姿もあったはずです。
でも写真の右上部分は破かれていて、父親の姿は見えないようになっていました。(たぶん母親が破ったんでしょうけど)この家族にもかつては幸せなときもあった、とさりげなく暗示しているのでしょう。
わりと分かりやすい提示の仕方ですが、一つ一つ見ていくと、小さい道具にもかなりの意味が込められていることがわかります。
小道具の使い方が上手!
ほかのシーンでも、小道具にはいろんな意味がこめられていて、観ていて楽しいですよ。
ズッキーニの持ちもの
空き缶:ズッキーニの家での遊び道具だった。母親に相手にされていないときに空き缶を拾って、タワーにして遊んでいた。その後も形見として取っている。
凧:キーアイテムだった凧。ズッキーニによるイラスト入りで、お父さんがヒーロー化されている&裏面はメンドリ・・・。父親がいなくなって会っていないから、願望を込めて、ヒーロー化されているんだと思う。切ない。
カミーユ救出のための小道具
ポータブルミュージックプレイヤー:シモンの秘密兵器。シモンとしては、ほんとうはプレゼントよりもお母さんからの手紙が欲しかったみたいだが・・・。強がっている一方で、シモンの繊細な一面が伺えます。
カミーユの誕生日にあげたプレゼントの船:カミーユを助けるための小道具として、大活躍である。
孤児院での暮らしのなかの小道具
気分予報:孤児院の出入り口付近に取り付けてある。子供たちの気持ちを「晴れ」や「雨」など、お天気のイラストで区分している!しゃれていて遊び心があります。
ベッドの布団の柄が子供によって違う・・・・シモンの布団は髑髏の柄!!
食事のメインが芋・・・ってか、ポテト。
新しい家で
くまのぬいぐるみ:カミーユがあてた景品。最後にカミーユの室内にちゃんと置いてある。
ズッキーニの実家に立ち寄ったときに背比べの古い印を見つける⇒レイモンの家で背比べの印をつけるなど、細かい部分までちゃんとラストで回収している。
まとめ:細部へのこだわりも楽しい人形アニメーション
かなり細かい点を挙げてきましたが、細部への作りこみも見ていて楽しい映画でした。人形を使ったアニメでは、背景セットの作りこみや演技にも限界があります。
そのため、画面に映るアイテムひとつひとつに、分かりやすく、そして無駄のない演出が込められることになります。
言葉やセリフで説明するばかりでなく、小道具をうまく使いながら、キャラの気持ちや状況を提示する。
観客がじっくり見ていくと、画面のなかには、実に細かい工夫があることがわかります。たまにはこういう鑑賞もいいな、と思っています。
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