「メッセージ」エイリアンの文字を共有することで見えてしまった未来

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「メッセージ」はエイリアンが出てくる映画ですが、全体的に地味でやや難解な作品です。ハラハラしたSFを期待して見始めると、期待外れになるかもしれないです・・・。

エイリアンという他者を通しつつ、地球や人類の方向性、そして主人公の人生の方向について思いを巡らせる作品になっています。

ネタバレありなので、まだ観ていない人は注意してくださいね。

「メッセージ」

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演:エイミー・アダムス/ジェレミー・レナー/フォレスト・ウィテカー

公開年:2016年

製作国:アメリカ

 

「メッセージ」の冒頭は未来からの問いかけ

まず冒頭に出てくるのは、主人公ルイーズが幼い娘と遊ぶ記憶、そして娘がなんらかの病気(癌かな?)で亡くなる記憶。

最初は過去の記憶だと思って見ていました。でもそれは実は未来に起こる出来事を見てしまっている、と後で気づきました。

娘を病気でなくす、という悲しい未来が必ずやってくると分かっていながら、その将来を選択するのかどうか・・・。

ラストまで待ってその答えを見たら、納得のいく作品になっています。ラストで主人公の選択には、深い感動を覚えました。

ルイーズとイアン・2人の学者

主人公ルイーズは言語学者、一緒に仕事をすることになるイアンは物理学者

基盤にしている学問が違うので、この二人の意見の対立をもう少し見たかったな‥と思います。あまりそんな描写がないのは、学問や信念の対立を映像にしたときにいまいち映えないためかな。

言語学についてはビジュアル化に成功していると思います。エイリアンに対して英語を書いて見せ、さらにエイリアンの文字を解読することで、次第に友好的な関係を築くことになります。

ルイーズの能力の大切さを伝えることに注力しています。一方で、理論物理学まではビジュアル化しにくかったのかな、と思います。

「殻」と呼ばれる宇宙船のなかで壁越しに対峙するエイリアンの姿は足、しかもぼんやりしたシルエットみたいな感じです。

タコ型のエイリアンは、ヘプタポッド(七本足)と呼ばれます。ヘプタポッドがなぜ地球に来たのか、この質問をするために、かなりの時間をかけて、コミュニケーションを取ろうと試みるルイーズ。

自らの名前を教え、顔を見せ、未知の文字を解読し、実に地道なアプローチです。エイリアンという圧倒的な他者との対峙の方法として性急な軍隊の発想とは対照をなしています。

ルイーズが言語学者であるという設定の面白さ

主人公であるルイーズが言語学者である、という設定は実に興味深く、また話の根幹を作っていると思います。

ご存じの方も多いでしょうけど、「バベルの塔」という神話があります。

神を超えることを目指して高い塔を築こうとした人間の不遜が、神の怒りに触れる。神の力によって塔は崩され、人間の言語がバラバラになり、言葉が通じない人間たちの間で争いが起こる世界が訪れる、という神話です。

本作では、言語の違うさまざまな国が、その思惑によって互いを警戒し、出し抜き合います。そして、宇宙人からのメッセージの意味を解明した主人公が、言語の力によって地球の人間の考えをひとつにまとめ、戦争の萌芽を解消する。

いわば「バベルの塔」の逆を展開したストーリーとなっています。主人公が言語学者というのは、ストーリーの必然から生まれた設定なのでしょう。

ヘプタポッドの文字の秘密

未知であった言語を知ることで、ヘプタポッドと対話し、その時間の概念や考えにまで影響を受けるルイーズ。

ヘプタポッドは、タコのスミのような黒い物質で、円形の文字を描きます。文字のフォルムが円形であることは、「線形時間(過去から未来へ直線的に流れる時間)」を表す時制を持たないことに通じています。

また意味の成り立ちでやり取りをする表意文字であることもポイントです。原作者が中国系アメリカ人であることも考えると、この選択は原作者のルーツにもかかわる描写になっています。

ルイーズやイアンは「言葉」のやり取りを通じて、ヘプタポッドの考え方や時間の概念を知っていく。ヘプタポッドの言語には、過去・現在・未来といった時間の流れの概念がない。

そのため、言語を共有していくことで次第にルイーズに時間の揺らぎが生じて、混乱を抱えるようになります。時間の軸が混乱して、ときおり未来が見えるようになってしまいます。

まとめ:未来が先にわかってしまったときの決断

エイリアンとのコミュニケーションという難題に取り組みながら、ルイーズは自らの人生の大きな決断をしないといけなくなる。

イアンとはいつか別れる、かわいい娘も若くして病死する、その結果をわかっていても未来を選ぶのかどうか?

ルイーズというひとりの女性の行動とか決断を見ていて、その精神の強さに打たれる人が多いのでしょう。

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