ナタリー・ポートマンの演技が見たくて選んだ1本です。やっぱりきれいです。が、バレエの映画だと思って見始めると、なんか違う・・・・。
実際、他サイトのレビューなどを見ると、バレエ団を舞台にしたサイコホラー、みたいな意見もちらほら。
ぞっとする迫力のこもった美しさというか、なんか怖いんですよ・・・・。
(ネタバレ含んでいるので、ご注意くださいね)
「ブラックスワン」
監督:ダーレン・アロノフスキー
主演:ナタリー・ポートマン/ヴァンサン・カッセル/ミラ・クニス
公開年:2010年
製作国:アメリカ
ニナと周りにいる3人の女性たち
ニナという主人公の葛藤と、周りにいる3人の女性たちの物語として、私はとらえました。
3人の女性たちは、ニナの「こうなっていたかもしれない姿」「もうひとりの自分」といった役割をそれぞれに背負っています。
母親・エリカ
ニナに最も大きな影響を与えているのが母親でしょう。エリカは20代のときにニナを妊娠したことで、バレリーナの夢をあきらめた経緯があります。
親となって、娘であるニナに対してかつて果たせなかった自分の夢を託している。エリカの態度は、愛情であると同時に、大きな呪縛となってしまっている様子がうかがえます。
母の期待に応えるためにも、努力してきたニナ。主役を演じるところまで来ているものの、どこか魅力にかけるバレリーナ、といった評価を抜け出せません。
母という大きすぎる存在を、果たして超えていけるのか。「真面目で繊細、美しいけど抑圧された娘」という役割から抜け出すために、ニナには大きな試練があります。
ライバル・リリー
優等生でまじめなニナの対極にいるのが、リリーです。
最初から、ニナと対立するのが目に見える登場シーンでした。ニナが踊ってテストを受けている真っ最中に堂々と遅れて入ってきて、その拍子にニナはバランスを崩してしまいます。
リリーという人物の性格は、けっこういい造形だと思います。ライバルであるニナと正反対の性格で、奔放すぎる態度や小悪魔的な魅力。
べつに主人公に陰湿な嫌がらせなどを行う悪人タイプではなく、正反対のキャラとして描かれます。
ニナは、自分の鏡像のようなライバルと対峙することで、なかなか超えることができなかった壁を超える力を身に着けていきます。
先輩・ベス
かつては人気のあるプリマドンナだったけど、いまや年寄り呼ばわりされて、現役を引退することになるベス。
もうトップの座にはいない、という現実を受け入れることができないのか、ヤケを起してしまった姿が出てきます。トップにいたものがいつかは辿る道筋なのかも、といった役割を背負っています。
「鏡」のなかから見られているという感覚
映画のなかでは、「鏡」というアイテムを用いて、ニナが何度も自分自身の姿を映しているシーンが出てきます。鏡というのが、本作のキーアイテムです。
冒頭から終わりまで「鏡」で何度も背中を見るシーンがあります。
ニナは時々、自分の爪で背中をかきむしることがあり、傷となっています。背中の傷は、自分だけでは見ることはできません。母親に見られるか、鏡越しに見るか。自分自身に向ける行為は、長年のストレスや抑圧のひとつとして繰り返されるのでしょう。
またリリーと羽目を外して帰宅したときにも、大きな鏡に2人の姿が映ります。今までだったら考えられないような姿で帰宅したニナを切り取って映す鏡、鏡・・・。
舞台衣装を合わせるときにも鏡に姿を映します。現実のニナが鏡を見ているはずなのに、次第に鏡のなかから見られるような心地にすらなる。
舞台初日の楽屋でも、鏡はキーアイテムです。ニナはライバルであるリリーと対立して、鏡に向かって、リリーをバンと突き飛ばします。このときに鏡が割れたことで、ニナの妄想と現実の世界がまじって融合したのかもしれない、とも思います。
どこからがニナの妄想で、どのあたりまでが現実なのか、分からない映像になっていて、ひとによって同じシーンでも、とらえ方が分かれると思います。
初日の舞台のなかの妄想と現実
ストレスや切羽詰まった感情に苛まされて、いろんな妄想を抱くようになるニナ。その最高の緊張は、舞台初日にやってきます。
初日の舞台の最初に大きな失敗をしてしまったニナが、泣きながら戻った楽屋で見るのは、ブラックスワンの恰好をしたリリー。
リリーに向かって、「私の出番よ!!」とすごい形相で言い切る強さを手に入れたことで、ニナは今までさんざん苦しんできたブラックスワンを見事に踊り切ってみせます。
しかし同時にやっつけたと思っていたのはリリーではなくて、実は自分自身だった。ラストを迎えて、その後ニナはどうなったのか・・・?
ラストでニナは死んでしまったのではないか‥とも思えるし、精神的な死ではないか‥、とも思えるシーンになっています。
長年にわたってニナが感じてきた自分への重圧を取り除くことで手に入れた「完璧」、あまりにも代償が大きいとは思うのですが。
同時に「完璧を極めてから最期を迎えたい」みたいな気持ちにも見えて、苦しい面もあります。
絡み合う嫉妬や不安の演出には面白い点が多いです。そして美しくて怖い、そんな感情を感じることができる作品です。
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