「ブロークバック・マウンテン」ジャックとイニスのいた場所

ランプの灯 ドラマ
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「ブロークバック・マウンテン」はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、かなり評価の高かった作品です。

同性愛を描いた作品ですが、テーマとしては、けっこう普遍的な作品ではないかな、と思います。

全体として淡々と話が進み、最後に感動がやってくる、といったタイプの作品です。

(ネタバレ含みますので、ご注意ください)

「ブロークバック・マウンテン」

監督:アン・リー

出演:ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール/アン・ハサウェイ/ミッシェル・ウィリアムズ

公開年:2005年

製作国:アメリカ

ジャックとイニスの違い

最初の出会いのシーンで、ジャックは車のサイドミラー越しにイニスを見ます。これからお互いの人生にやってくるドラマを考えると、すべての始まりになる視線です。

ジャックの美貌を崩すことなく表現した、非常に魅力的な導入となっています。

一方のイニスは、なんだかぼそぼそとしたしゃべり方で、口数も多くはない。ちょっと伏し目がちというか、複雑そうな表情の青年として登場しています。

ジャックと打ち解けてきてから、やっとまともにしゃべりだすなど、やや内気な性格が見て取れます。

出会ったころから年月が流れて、ジャックはイニスと2人で暮らしたがるけど、イニスには同性愛がタブーであることへの恐怖があるので、積極的にはなれない。

イニスには、かつて少年時代に、同性愛が許されないものだ、と父親から教わったときの心理的なショックが強く残っています。

2人の考えの違いが、お互いへのいら立ちを生み出してしまいます。

表向きの男性像と本心の差

本作のジャックとイニスは、お互いに惹かれていることはわかっていながら、同性愛者への迫害や偏見ゆえに一緒に暮らすことはかなわない、とも分かっています。

ジャックから「一緒に牧場を経営して暮らそうか」と誘われるものの、イニスにはゲイであることが周囲にバレたら・・・という恐怖感があるために公になるのは避けたい、という思惑があってジャックの誘いを断ります。

それぞれに伴侶がいて、子供もいて、社会的には父親や夫として「あるべき姿」を要求されます。

映画のなかでジャックの義父が執拗なほどに「強い男像」にこだわる姿は滑稽なほどです。「男らしくあれ」という点が強調されていて、そこから外れる者には容赦なく冷たい、そんな社会が背後に感じられます。

表向きの男性像と、自分のなかの本心とに引き裂かれている、という点ではジャックとイニスは共通しており、それぞれに苦しみます。

「ブロークバック・マウンテン」は同性愛を描きつつ、けっこう普遍的な悲恋のひとつを描いています。

結局、2人の関係は、表向きは伏されたままで、ジャックの死をもって終了してしまう。イニスはずっとジャックのことを忘れない、という気持ちを示してラストとなります。

ジャックはイニスの人生に決定的な変化を与え、そして先に去ってしまう。悲恋ものではよくあるパターンであり、本作も感情を丁寧に追っています。

ジャックが死んだのは、表向きは「事故」ということになっているけど、イニスは周りからリンチを受けたジャックの姿を想像します。イニスは想像に浮かんだジャックの最期を否定することができないでしょう。

ブロークバック・マウンテンという場所

ブロークバック・マウンテンは、もっともキラキラしていた時間とか、大切な場所の象徴として存在しています。

遠くから見つめることができても、もうあの場所にはなかなか戻れない、というイメージなのでしょう。

そんなイメージは多かれ少なかれ、たいていの人が持っているはず。

そう考えると、「ブロークバック・マウンテン」はけっこう普遍的な話として受けとめることができます。

本作のロケを行ったのはカナダらしく、雄大な自然が美しい。その背景の美しさや奥行きも、本作を見ごたえのあるものにしています。

まとめ

同性愛を扱った映画ではあるけど、よく見ていくと、社会に根強く残る問題とか、人生のやるせなさとか普遍的なテーマが浮かんできます。

「山でなくしたはずのシャツ」が最後に生きてくるなど、細かい演出も効いているので、じっくり鑑賞してみたい映画です。

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