映画「シェフ」は、「アイアンマン」で有名になったジョン・ファヴロー監督の映画です。
腕はいいものの、実力を発揮できない雇われシェフの主人公・カールを演じているのは、ジョン・ファヴロー本人。眼に力のあるいい俳優さんだと思っていたら、監督だった・・・。
「シェフ」は、一度は挫折した中年男性がもう一度、自分の夢や人生のためにアクションを起こす映画です。
劇中の料理を見ているだけでお腹が減って、最後には幸福感を味わえる映画をレビューしてみます。
「シェフ」
監督: ジョン・ファヴロー
出演:ジョン・ファヴロー/ソフィア・ベルガラ/ジョン・レグイザモ/スカーレット・ヨハンソン/オリヴァー・プラット/ボビー・カナヴェイル/エムジェイ・アンソニー/ダスティン・ホフマン/ロバート・ダウニー・Jr
公開年:2014年
製作国:アメリカ合衆国
「シェフ」冒頭10分で主人公カールの人生がわかる!
タイトル通り、主人公は料理のプロです。冒頭から、レストランのなかで包丁でフルーツを刻み、ソースを作り、肉を焼くシェフの姿が映されます。
シェフが腕前をふるう姿は、おもに冒頭から中盤にかけてたびたびアップで紹介されます。
画面にアップで映るのは素晴らしい料理の数々。ジュっと音を立てて焼ける肉、カラフルなソース、美しい盛り付けなど。
見ている側が、おもわず「食べたーい!!」と思ってしまうくらい魅力的でおいしそうな料理ばかりです。
主に前半で調理中の描写をたっぷり描くことで、シェフの腕前とおいしさを印象付けています。
冒頭10分くらいの描写で、この10年の間に主人公カールの人生は大きく変わったことが示唆されています。
10年前にはマイアミで話題のシェフとなり、名を馳せたころです。同じころ、息子が生まれ、父親になった模様。
しかし時は流れ、妻とは離婚して、いまでは息子にたまに会いに行く日々となっています。ひとりでアパートに暮らし、仕事ではマンネリ化したメニューをレストランのなかで作り続ける日々。
冒頭では息子とサンドイッチを食べながら、「そのうちマイアミに行きたいね」なんて会話をしています。
はじめのうちに、話のアウトラインをおおよそ予想させるセリフも盛り込みつつ、主人公の人生の変わりぶりを見せています。
冒頭でカールがレストランでひときわ気合いを入れて準備していたのは、有名フードブロガーがレストランにやってくるから。
実はフードブロガーは、10年前にマイアミでカールの料理を食べたことがあり、評価してくれていた人物です。
しかしながら、今のフレンチレストランでのカールは、オーナーの指示にしたがってワンパターンの料理を作る雇われコックとなっています。
ブロガーは新鮮味のないメニューに失望して、かなりの酷評をネットにアップします。
冒頭では直近の10年という時間を提示して、「こんなはずではなかった人生」を送っている中年・カールを描いています。
「シェフ」は迷ったときに原点に戻る旅の映画だ
カールは新作料理を出したいのに、オーナーは定番メニューを出せといって譲らない。ついに激突して、開店間際なのにカールは店を辞めることに・・・・。
ツイッターに慣れていないせいもあって評論家とも激突。カールがブロガーに怒鳴るさまがアップされてしまい、炎上する騒ぎになります。
いろいろと人生に行き詰ったカールが(元妻の後押しもあって・・・)選んだ道は、フードトラックを購入して屋台を始めること。
もともと元妻から「フードトラック(屋台)をやってみたら」とは言われていました。シェフというプライドが邪魔して、また元妻からのアドバイスなのでその点も受け入れがたく、断っていたのですが・・・。
屋台で出すメニューは、キューバサンド。あつあつのチーズがとろけるホットサンドです。
とてもシンプルなんですが、ほおばって食べるのがとてもおいしい味。フードトラックを走らせて、マイアミから再起を図ります。
なにもかもうまくいかなくなった時には、自分の原点に戻るべし、といった鉄則をうまく脚本に落とし込んで描いている作品なのです。
息子・パーシーとの短い夏の旅
「シェフ」は息子と父親のロードムービーでもあります。
カールと息子との関係をじっくり描くことで、父親から息子への「仕事を伝える話」になっています。
おんぼろのフードトラックを2人で掃除するところ、機嫌を損ねたパーシーが怒って作業しないところなど、親子のぶつかり合いもあります。
地味な作業ですが、ボロボロのフードトラックを掃除するシーンをしっかり描くのは大事です。客には直接見せない苦労の部分を描くことで、あとの成功が生きてきます。
焦げてしまったサンドを「(今回のは)どうせタダだよ」というパーシーを父親カールが諫めるシーン。作るのも食べるのも好きな料理人としての姿勢を伝えていくのです。
離婚してからその後は、ときどき父親と会うことはあっても、いっしょに作業することはあんまりなかったみたいで、パーシーはいっしょになにかをできることを喜んでいます。
たまにあって食事するだけの関係だと、なかなか苦楽を共にするみたいな関係は築きにくいですよね。
カールがネットやSNSを分かっていないので、苦手な部分をしっかりとパーシーが現代っ子としてカバーしている面もいいです。
教えてもらうだけでなく、ちゃんと役割分担ができていて、パートナーっぽくなっている。
旅という非日常が生み出す関係を描いていて、夏の思い出の映画としても楽しい一作です。
料理ブロガーも悪者ではない描き方がいい
「シェフ」のなかで興味深いのは、料理ブロガー・ラムジー・ミッシェルの描き方です。最終的にはブロガーとカールは和解します。
仕事も地位もすべて失うきっかけになった、ブロガーとの対立。カールは恨んでもよさそうなものですが、ブロガーにとっては、カールは10年前には新進気鋭のシェフとして憧れだったことも事実。
結局、立場は違っても「おいしいもの、料理が好き」という点では似ている2人なのでしょう。
ブロガーを演じるオリヴァー・プラットのたたずまいも素晴らしいです。
キャリアにふさわしい年齢を感じさせるものの、童顔にも見える顔立ちは、料理への素直な愛情や好奇心に満ちており、料理評を人気ブログに仕立て上げる柔軟さも表現されています。小太りな中年である主人公を食わない程度の、イケメンすぎないビジュアルも適切です。
料理が好き、という共通点で主人公の周りには人が集まってきます。かつての部下が助けにきたり、行く先々で新しい食材を手に入れたり。
出てくる人物たちがなんとも楽しく、気持ちのいい連中なのです。
まとめ:シンプルだけど「美味しいのは幸せ」を実感できる映画
なにもかも失ってどん底に落ちた感のあったカールですが、最終的には復活して、より幸福な人生を手に入れます。
脚本はとてもシンプルで、定番の話の流れですが、芯の通った強さがあります。落ち込んだときに見ると、気持ちが満たされる作品です。
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