「Ray/レイ」母との約束を核にしたレイ・チャールズの伝記映画

ピアノ ドラマ
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レイ・チャールズの生涯を描いた伝記的映画。とても見ごたえのある内容になっています。

公開当時からよく言われたことですが、主演ジェイミー・フォックスの演技が印象深い作品です。しぐさとか歩き方の演技のひとつひとつに説得力があります。

DVDには、劇場公開版とエクステンディッド版が収録されているんですが、エクステンディッド版だと途中で未公開映像が差し挟まれて、ちょっと気が散る人もいるかもしれないですね。

 

「レイ」

監督:テイラー・ハックフォード

出演:ジェイミー・フォックス/ケリー・ワシントン/アーンジャニュー・エリス/ レジーナ・キング

公開年:2004年

製作国:アメリカ合衆国

子供時代の回想シーンの美しさ

冒頭に、作品の核になる一番重要なシーンがおかれていて、しかも美しい導入です。母親の姿は洗濯物のシーツに囲まれていて、すぐには顔が見えないのです。シーツが風にあおられて、登場する母親・アレサ。

盲目になった息子を励まし、きびしく育てた母親の記憶は、レイ・チャールズのなかで核になっていたのでしょう。「盲目でも自立すること」を約束にしたことが、そのあとの支えになっていきます。

冒頭の短いシーンでまず核になる母親を出して、たびたび回想として、そしてラストに登場します。

回想シーンでもう一人、重要な存在になるのが、弟です。たびたび登場する、急に室内に水があふれるシーンは幻想なのですが、レイ・チャールズの子供時代のトラウマともいえる記憶と結びついています。

幼いときに水に溺れる事故で弟を亡くしてしまったことが明らかになり、こちらもたびたび記憶として浮上してきます。

大人になっても逃れられない記憶として、弟の事故への責任感とか罪悪感に苦しみながら、もがいている様子が描かれます。

過去の回想と、現在の活躍が交互に描かれる構成は定番であり、人物を描くときに深みのある造形を作る方法として、有効です。

伝記映画で「醜さ」を描くときのポイント

ミュージシャンとして素晴らしい成功を手にしていながら、私生活ではトラブルを繰り返すありさまだったレイ・チャールズ。

天才、と称される人にはいろいろトラブルを繰り返すケースは確かにあり、レイ・チャールズもそのタイプだったみたいです。

その点を残念に思う人もいるでしょうけど、伝記映画としては醜い面も含めて描く必要がある、と思います。

主人公を悪人として描くときや主人公の醜い一面を描くとき、それでも観客に共感させることが、映画では大切です。それを可能にする作劇術はいくつかあります。

ひとつは、文句のつけようのない善行を描くこと、つまり聖人化です。ただしこれは、序盤にその善行のシーンを置くことが難しいため、中盤以降のアクセントとして補助的に扱われるか、クライマックスに持ってくるかのどちらかとなるでしょう。たとえば『タクシードライバー』…は違うかもしれない…。

ふたつ目に、主人公の邪気の無さを描くこと、つまり天使化です。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など。

三つ目が、幼少期の大切な記憶を描くこと、つまり多くの観客が大切にしている記憶や経験に訴えかけて共感を得る方法です。『市民ケーン』など。

本作では、三つの要素全てが非常にバランスよく入っています。特に第三の要素である幼少期の記憶の描き方が大きなポイントです。

人間的な醜い一面を描くことで、伝記映画が描くべき人間のひだをしっかりと描いてレイ・チャールズという人物に深みを与えています。同時にその醜さを超えて観客が共感することを可能にしつつ、映画全体のテーマとしっかりと結びついている冒頭は感動的です。

1曲の背景にあるエピソードも楽しみ

盲目になったことや弟を亡くしたことなど、少年時代の出来事がレイ・チャールズのその後の人生を決定づけたわけで、ときどき差し挟まれる回想シーンによって、レイ・チャールズの内面を見ている気分になります。

その一方で、実力が認められて音楽の世界で大成功していくプロセスを見ていくので、内面のデリケートさとのギャップに危うさを感じつつ、ストーリーを追うことになります。

一度は耳にしたことがあるだろうヒット曲が全編で使われていて、懐かしさを感じながら見る人も多いでしょう。1曲1曲が生まれてきたプロセスも興味深いので、「あの曲にはこんな背景があったのか・・・」という楽しみもあります。

たとえば、私が好きなのは「Mess Around」を作るシーンです。アーメットが歌詞を歌いだして、レイ・チャールズが曲をつける、一気に曲が出来上がっていくシーンを実に楽しそうに演奏していて、臨場感があります。

自分の好きな1曲のエピソードを見ながら楽しむ、というのもアリです。レイ・チャールズのヒット曲の数々を堪能しながら最後まで見ることができる作品です。

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