エラリー・クイーン国名シリーズの第3弾。今回は病院が舞台のミステリー。手術を受ける直前に、大富豪の女性が殺害されてしまう。
執刀予定であった医師が疑われるが、だれかが医師に成りすましていた可能性があり…?病院内での犯罪をエラリークイーンが解明する。
『オランダ靴の秘密』
著者:エラリー・クイーン
訳者:越前敏弥/国弘喜美代
発表年:1931年
出版社:株式会社KADOKAWA
『オランダ靴の秘密』の特徴

- 主な舞台が病院内に限定されている
- 疑わしい人物はそんなに多くない
- 使用されているアイテムからなんとか犯人を推測できる(難易度の設定が妥当)
これらの限定された特徴のおかげで、今回はなんとか犯人を割り出せる人もいるんじゃないかな…と思います。この「一般の読者でもがんばったらなんとか犯人を当てることができる」レベルに設定してあるあたりがポイントかなと思います。
あんまり難易度が高いと挑む気が無くなるし、すぐにわかったら読む意味がないし。がんばったらなんとか推理ができるので、読んでいて面白いんでしょう。犯人を当ててやる、という推理小説の基本を楽しめるので。
今回はP259からわざわざページの下部に余白を多く取ってあり、読者が推理のためにメモ書きできるようにしてあります。(…使う人いるのかな?)
本作のキーアイテムはタイトルにもある通り、一足の靴。犯人が履いていたと思しき靴の特徴から、エラリーは犯人のイメージ自体はわりとつかんでいます。
読者でも一応、しっかり読み込んだら犯人をイメージできるのですが、その一方で、「あ、こんな形で騙したのか!」という驚きも用意されています。
努力すればなんとか…という推理の楽しみと、犯人の意外性とがバランスよく配分されています。
『オランダ靴の秘密』面白かった点
謎の人物スワンソンの行動やタイミング
妙なタイミングで登場するスワンソンという人物の胡散臭いこと。冒頭の手術開始前、ジャニー医師が逮捕された後、という妙な時に出てくる。この人物の正体が分かると、すっきりします。
最後に示されるロジック展開がきれい
ロジックがきれいなのはエラリークイーン作品の特徴。合理性がある、説得力がある、ということで読み終わった後の納得感、すっきり感が高い。
犯人のなりすましの手腕が見事
同じ室内に2人の人物がいるとみせかけて、実は犯人のなりすましによる一人二役でした…。けっこう大胆ななりすまし方だと思うんですよ。
近くの人や捜査関係者には、いかにもジャニー医師がいるかのようにふるまい、しかし自分の声では話さないあたり。
ジューナとエラリーのエピソード
P350あたりでは、クイーン家に雇われているジューナという少年と、捜査に行き詰まったエラリーのやり取りがあります。他愛ない会話なんですが、捜査に行き詰まっている展開の中にさしはさむと印象深い。
ジューナの無邪気な意見で、もう一度、捜査について考え直すエラリー。捜査現場で新しい情報を得て、一気に事件の解決に繋がっていきます。
今回は表紙にもジューナが登場しています。少しのシーンしか出てこないけど、捜査にからまないぶん、明るいキャラとして貴重ですね。
まとめ:がんばって犯人を当てよう!

『オランダ靴の秘密』はファンの間でもけっこう人気があるそうで、これはロジックを積み重ねていった推理の面白さに依るものでしょう。
犯人を当てる、というのが推理の面白さの根本。一足の靴というアイテムを使って、非常にフェアな話の展開で、その基本を楽しめるのです。
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