『Yの悲劇』はミステリー史上傑作と名高い作品です。私も作品名は知っていましたが、読むのははじめて!
けっこう期待して読みはじめました。
・・・で、ミステリーとしては、前作『Xの悲劇』の方が私の好み。ただ、『Yの悲劇』には単なる謎解き以上の魅力があります!
『Yの悲劇』
著者:エラリー・クイーン
訳者:越前敏弥
発表年:1932年
出版社:株式会社KADOKAWA
『Yの悲劇』の魅力は苦悩するドルリー・レーン
自身の推理が正しいと分かっていながら、事実を公表したらかえって良くないかも・・・と気づいて悩む、探偵ドルリー・レーンの苦悩がこの作品の魅力です。
舞台となるのは、変人揃いの一家・ハッター家の豪邸。暗く陰気な家の中で断続的に犯罪が起こります。
捜査に乗り出した元俳優レーンですが、一家の抱える秘密に気づいて、どう解決すべきか悩むのです。
『Yの悲劇』の面白さのポイント

- 犯罪の筋書きを考えた人物と実行犯が違う
- 身長などでマーサを仮の犯人として誘導していた
- 毒殺未遂は見せかけの作戦だった
- 犯人の残酷さと未熟さゆえの事件の複雑さ
- 事実を公表することが探偵にとってベストの選択なのか?
犯人はね・・・途中で目星ついてしまう人もいるようで、確かに身長によって、中盤である程度割り出せます。
本作での犯罪は、巧妙に仕組まれているようでありながら、妙に雑なところもあり、そこに操作の混乱が生じます。
犯人そのものよりも、妙にチグハグな点から、犯人ひとりの仕業ではなさそうな点が面白いところ。
犯罪の筋書きを考えたのが大人、実行しているのは子供、となれば合理的ではないところも出てくるわけで、まさか・・・と思いつつ、犯人を推察するレーン。
わりと早い段階で犯人を割り出している点は『Xの悲劇』と共通ですが、『Yの悲劇』の方が解決までの悩みが深いんですね。
衝撃的なラストシーンの意味

謎解きもさることながら、重たいラストシーンがすごく印象的なのです。
ブルーノは、レーンが犯人に更生の見込み無しとして(おそらく)この世から強制的に去らせた、というショッキングな事実を察知してしまう。
一方で、サム警視は気づいていない。捜査機関の二人の差がハッキリ出ています。
事実に気づいてしまったブルーノは、次回作以降、出番がなくなっていきます。多忙な職業というのもあるんでしょうけど、レーンから距離を取る形にもなってしまいます。
レーンは探偵として関与しながら、必要なら自ら犯罪に手を染めることも辞さないタイプ。もはや単なる探偵の仕事の範囲超えてる・・・。
しかもラストシーンの描き方が、なんとなく分かる、くらいに抑制されていて、細かい部分は読者の想像に任されています。抑えが効いていて、味わい深いのです。
まとめ:シリーズ全体で再読するとより楽しめる!

「正義とは何か?」という疑問を突きつけてきて、苦味のあるラストシーンが最大の魅力かも。推理が鮮やかで痛快なミステリーとは、楽しむポイントが違うんでしょうね。
このラストシーン、実は最終の『レーン最後の事件』にまでつながるので、構成力がすごいな・・・と感心。
シリーズ最終作まで読んでから『Yの悲劇』を再読すると、さらに良さが増します☆
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