『ローマ帽子の秘密』は1929年に発表された、エラリー・クイーンのデビュー作。
もともとは、ある賞に応募するために書かれた作品であり、タイトルに国名が含まれている、国名シリーズの第一作にあたります。
今までに複数の翻訳が存在しますが、私が手にしたのは2012年刊行の越前敏弥氏による翻訳。全体的に、とても丁寧で読みやすい翻訳でした。
表紙のイラストで好き嫌いが分かれるかもしれませんが、ビジュアル面を変えたのは、新しいファン獲得のためのひとつの方法なのでしょう。私はわりと肯定的な評価です。自信家らしきエラリーが描かれていて、新規の読者なら興味を持ちそう。
以前、私はいわゆる悲劇四部作を先に読み、レビューをアップしました。
エラリー・クイーン作品なら、いわゆる国名シリーズも読まないとね、ということで今回は『ローマ帽子の秘密』を取り上げてみます。

今回は特にネタバレなしですよ。
『ローマ帽子の秘密』全体の感想
- エラリー・クイーンの気取った態度は好き嫌い分かれそう
- 本作では父親であるクイーン警視のほうが目立っている(このあたりが今後どうなるのか・・・)
- 親子はなんだかんだで仲がいい(警視にとっては自慢の息子らしい)
- かなり細かい伏線とその回収
- 現場から消えた帽子シルクハットにからむ謎解きは面白い
『ローマ帽子の秘密』親子コンビの魅力が高い
本作では小説家で息子のエラリー・クイーンと、その父親リチャード・クイーンが、劇場内で起こった事件の解決に挑みます。エラリー・クイーンはキャラ造形が上手い人だったんだな、と思いつつ読みました。
かつて悲劇四部作のうちの『Zの悲劇』で登場したペイシェンスを、女性探偵のさきがけ的なキャラとして登場させた点を私は評価しました。
ペイシェンスについてはファンの間で、好き嫌いはっきり分かれるらしいのですが、作品を先に進めるために新しいキャラを作り出すという点においては、けっこういいキャラだと思いました。
印象深いキャラを作れるという点は、魅力的なストーリーを展開するには重要ですよね。
今回の事件の捜査は、警視であり父親のリチャード・クイーンが主に担当しますが、謎解きの大きなヒントは息子エラリー・クイーンが提供します。
親子による名コンビもの、バディものというキャラクターの配置が成功していて、「この作品には、父と息子の2人がいないとダメなんだろうな」と読者である私も思ってしまう。
プライドが高く、持ってまわった言い回しの気取った息子の頭脳や知識を、なんだかんだで頼り、自慢しているリチャード・クイーンがなんだか可愛らしいくらいに思えます。
『ローマ帽子の秘密』は有名なミステリー小説ですが、魅力的な登場人物・キャラクターを作れるという点でもエラリー・クイーンは優れていたんだな、と感心します。
著者であるエラリー・クイーン自身が2人の男性コンビによる合作ペンネームだったので、登場人物も2人によるコンビになったのかしら・・・とか勝手な想像までしてしまう。
キーアイテムは「帽子」!最後まで飽きずに読める

『ローマ帽子の秘密』ではタイトル通り、事件の現場から消えたシルクハットを見つけ出すことが、解決のカギになります。
「ぼくの見まちがいじゃなければ、座席の下にも、近くの床にも、このあたりのどこにも、その男のシルクハットがないからさ」
『ローマ帽子の秘密』 著者/エラリー・クイーン 訳/越前敏弥・青木創 株式会社KADOKAWA 2012年発行 P55
なにか手がかりを残した、というパターンではなくて、あるはずのアイテム・シルクハットが見当たらないという逆転したヒント。
帽子を現場から持ち去った理由としては、帽子にはなにか重要なものが隠されていたのか、犯人の手がかりになるのか。
シルクハットというキーアイテムの使い方もうまいし、タイトルも全体の内容を端的に示しています。
(私にはとうてい無理ですが・・・)自力で推理してみたい、という人むけに、登場人物目録や見取り図、本編の途中にさしはさまれる状況確認のための章などもあります。
読者をのめり込ませる仕掛けはいろいろ施してあるので、古典的なミステリーを読んでみたい、という方にはやはり必読の作品なのでしょう。
まとめ:続きを読みたくなるシリーズ第1作

いわゆる「国名シリーズ」と言われるエラリー・クイーンが主人公のシリーズは、けっこう作品数が多いようですが、これから続けて読んでいってみましょう。
ミステリーとしてだけでなく、親子コンビがどういう展開していくのか、そのあたりも楽しみです。
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