クリスマス向けの作品をご紹介しています!
「34丁目の奇跡」がはじめて作られたのは1947年です。その後、実に4回ものリメイクを経ているあたり、クリスマスの定番の作品として愛されてきたのでしょう。
私が今回見たのは、1994年製作のレス・メイフィールド監督作品です。
「34丁目の奇跡」
監督:レス・メイフィールド
出演:リチャード・アッテンボロー/エリザベス・パーキンス/ディラン・マクダーモット/マーラ・ウィルソン
製作国:アメリカ合衆国
公開年:1994年
サンタそっくりの老人という描き方
舞台はニューヨーク。老舗デパート・コールズに勤めるドリーは、クリスマスに向けて大忙し。ある老人にパレードでのサンタ役を依頼します。サンタにぴったりの風貌の老人であるクリス・クリングルは町の人気者に。
でも快く思わないライバル社ショッパーズの陰謀によって、事件に巻き込まれ、ピンチを迎えます。果たしてクリス・クリングルはサンタとしてまた街に戻れるのか・・というあらすじです。
サンタクロースそっくりの風貌が特徴の老人クリス・クリングルの描き方は、その正体をちょっと曖昧にぼかした感じになっています。そこが、この夢のある話のいい点だと思います。
冒頭、路上でクリス・クリングルが、小さな男の子を連れた老人と会話するシーンが出てきます。
男の子はクリス・クリングルのことを見て、その外見からサンタではないか、と思ってしまう。クリス・クリングルは男の子にだけ、自分がサンタであることを耳打ちして去っていきます。
最初からクリス・クリングル=サンタクロースであることをうかがわせながら、話は進みます。
子どもたちからはサンタだと思われ、大人からは風貌がそっくりなだけの老人と思われつつ、本当のところは・・・・という展開。
本物のサンタクロースかどうか疑ったり、気持ちが揺らいだりしながら、周りの大人たちもサンタクロースの存在を考えざるを得ない、という構造になっています。
ドリーとスーザンの気持ちの変化に注目
この作品のなかでは、ドリーとスーザン母子の心の変化が大きなテーマです。
ドリーは、過去のつらい経験からもう他人を、そしておとぎ話を信じられなくなっている大人のひとりです。
現実にはつらい出来事や、思い通りにはならないことがたくさんあるため、一度傷ついたことで不信感のほうが強くなることはよくあることです。
ドリーは自分の娘であるスーザンにも、「サンタをはじめとする、おとぎ話や夢のある世界」を信じない、という考えを持たせています。
スーザンはまだ幼いし、本当はサンタに願いたいことをもっています。でも母親のことを考えると、素直にサンタにお願いをすることができない、という苦しい立場にいます。
スーザンはとても賢い子で、あれこれと大人に反論できるくらいです。ちょっと生意気な子と言われかねない面もありますが、スーザンなりの傷つかないための世の中との接し方ではないかな、と思います。
子ども好きで、デパートの利潤よりも子供たちが喜ぶことを優先するクリス・クリングルに接している間に、いつのまにかもう一度、サンタや夢のある話を信じる気持ちが芽生えるドリー。
かたくなになっていた気持ちが変わっていくさまというのは、観ている側も嬉しくなるものです。
ブライアンとドリーの関係の変化
サンタクロースはいるのか、いないのか・・・・。この問題をめぐって話が大きくなり、やがて裁判沙汰にまでなってしまう。
ブライアンという男性が、最初はドリーの恋人役としてスクリーンに登場し、クリス・クリングルが窮地に陥ったときに助けてくれる立場であることが明らかになります。この見せかたもいいな、と思います。
ブライアンは、ドリーに思いを寄せながらも簡単には受け入れてもらえませんが、頼りになる男性です。
かたくなだったドリーが、ブライアンに対して電話して、「クリス・クリングルを助けたい」とお願いするシーンがあります。
だれのことも信じなかったドリーの気持ちに変化が生じていることを、ブライアンも感じ取っている様子です。
ちょっと気まずい関係の二人であること、それでも協力する立場であることなどを伺わせて、いいシーンです。
まとめ:サンタクロースを信じる理由がわかる映画
映画を観終わって、タイトルにもなっている「miracle(奇跡)」について考えてしまいました。
本当に大事なのは、サンタクロースがいるかいないか、ではありません。私たちがサンタクロースを信じるか否か、ということだったのです。
人間にとってファンタジーや夢はなぜ必要なのか、ファンタジーがなくなるとはどんな結果をもたらすのか、といった問いを持っている作品です。
大人になるにつれて、ファンタジーやおとぎ話のように、人生はうまくいかないということが嫌でもわかってくる。
しかしそれでも、サンタクロースという存在(に象徴される美しいファンタジー)を思い描くことに価値がある、と肯定できることが素晴らしいのではないか、と思うのです。
クリス・クリングルの敵役として出てくる人物たちも、案外サンタ(という夢のある話)をどこかで信じている、というシーンがいくつか出てきます。ものすごい悪人が出てこないあたりも、ほんわかした雰囲気の作品です。
結局、人間の世界にはなんらかの形で、「見えないものを信じる」という気持ちが必要ということを示してくれる作品です。
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