映画「レ・ミゼラブル」ジャベール警部はなにに敗北したのか?

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前回に引き続き、映画「レ・ミゼラブル」のレビューをアップします。

前回のレビューは以下になります。こちらもご覧ください。

 

*いままでに何度か映像化されているので念のために書いておくと、今回のレビューは2012年のトム・フーパー監督作品です。

「レ・ミゼラブル」

監督:トム・フーパー

出演:ヒュー・ジャックマン/ラッセル・クロウ/アン・ハサウェイ/アマンダ・サイフリッド/エディ・レッドメイン

製作国:イギリス

公開年:2012年

 

ジャベール警部の立場は「正義」

たくさんの蝋燭

ジャン・バルジャンをしつこく追い続けるのが、ジャベール警部です。ひとたび、罪人となったものは、ずっと罪人という考えかた。ジャン・バルジャンのことを執拗に追いかけ、追い詰めます。

ジャベール警部は「法」を守らせることを人生の根本にしており、そこから外れた者を決して許さない。人間がいつしか変わる、心を入れ替える、といったことを信じていない。

ミリエル司教とは真逆の立場にいるタイプです。

映画「レ・ミゼラブル」のジャベール警部

ラッセル・クロウ演じるジャベール警部は目つきがいいと思います。ジャン・バルジャンを疑わしそうに見る目つき、執拗に追う目つき、そして命を助けられて迷う目つき。

映画でのジャベール警部は、わりと高い位置から他人を見下す位置にいます。壁の上とか馬上とか、上から罪人や市民を支配する、といったイメージです。

歌うときも橋の欄干とか、建物の塀の上とか、とても不安定な場所に立って歌っています。これはいわば、ジャベール警部の末路を暗示しているのでしょうけど・・・。

ラッセル・クロウの演技や歌も非常にうまく、重さのある役を演じています。

ジャベール警部の価値観の崩壊

天秤

映画の後半、革命を起こそうとしている市民達の中にスパイとして忍び込んで捕まったジャベール警部と、ジャン・バルジャンが一対一で向き合う場面があります。

ある意味、この話のなかでもっとも要になるシーンでしょう。

仮に、ここでジャベール警部を倒しておけば、もうしつこく追われることもないでしょう。充分にわかっていながら、しかし、ジャン・バルジャンは縄を切ってジャベール警部を逃がします。

「罪人」であったジャン・バルジャンによって生かされる、ということはジャベール警部の価値観からいって、あり得ない、あってはいけないことです。価値観の根本を崩されてしまう出来事だったと言っていいでしょう。

ジャベール警部の変化は、ちょっとしたところで見て取れます。

革命が失敗したあと、犠牲者たちを見て回るジャベール警部。ガブローシュという少年の遺体に、自分の勲章をつけてあげます。

反旗を翻した市民は、たとえ子供でも、ジャベール警部の敵であるはずなのに、悼む気持ちの表れともいえる行為です。「今までとは違う人物のようだな」と観客にも分かる、印象深いシーンです。

負傷したマリウスをかついで病院に行こうとするジャン・バルジャンに、「動けば撃つ」といいながら、結局は撃てなかったジャベール警部。この時点で、完全に自己が変質してしまったことを認めざるを得ない。

命を助けられたことによって、価値観を破壊されたジャベール警部。こうなると、もう舞台から消えるしかないわけです。

ジャン・バルジャンとは対立する概念の象徴だった、ジャベール警部の最期。

いわば「人が悔い改めて変わっていく」というミリエル司教の考え方に、敗北した瞬間なのです。

まとめ:「レ・ミゼラブル」を貫く考えとは

ジャン・バルジャンとジャベール警部の対立こそ、「レ・ミゼラブル」という作品の主軸だと思うのです。人間の変化を信じることができるかどうか。

この一点で、踏みとどまれるかどうかにこそ、ジャン・バルジャンの人生の要があったのだと思います。

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