「少女は夜明けに夢を見る」現実を美しい映像で伝えるドキュメンタリー

手の中の花 ドキュメンタリー
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「少女は夜明けに夢を見る」は、SNSでの告知などで前から気になっていた作品なので、今月半ば、劇場で鑑賞してきました。

イランで少女ばかりが入所している少女更生施設があり、彼女たちを追ったドキュメンタリー作品です。

「少女は夜明けに夢を見る」

監督:メヘルダード・オスコウイ

製作国:イラン

公開年:2016年/2019年(日本)

施設内部にカメラを向けたインタビュー

コスモス

 

施設に暮らすのは10代くらいの女子ばかり。雪だるまをつくったり、一緒に歌を歌ったり、なんだか学校みたいな雰囲気です。

しかし、施設に入る以上、過酷な背景があります。皆それぞれに、家庭には困難さがあり、まっとうに生きていくことが出来ない。たとえば親が病気だったり、中毒患者だったり・・・。

そしていつしか、子供である彼女たちも罪を犯すはめになり、ついには逮捕されて施設に入ったという経緯があります。

監督からインタビューを受けてカメラの前で話しているとき、最初は屈託のない笑顔を見せているけれど、次第に表情が変わり、涙を流す子がいます。他人のインタビューを聞いているだけで、自分の過去を思い出して泣きだす子もいるくらい。

そして皮肉なことに、少女たちは、お互いの痛みに共感しあい、理解しあえる友人なのです。社会では疎外されてきた者同士、いっしょにいられるのです。でもいつか施設の外に出て、いったいその後、どうなっていくのでしょう。

彼女たちはたしかに罪を犯したから逮捕され、裁判を受け、そして更生施設に入る羽目になりました。もし生まれた環境がもっとマシだったら、もっと違う場所で育っていたら、また違う人生があったでしょう。

彼女たちへのインタビューは、同時に大人への問いかけであり、社会への疑問なのです。

「他者の痛み」を思うのも想像力

入口

 

映画の終盤で、「社会には勝てない」とある少女は言います。「社会が父に仕事を与えてくれていたら、もっと違っていた」

失業や貧困、犯罪や差別といった問題のしわ寄せが、まだ子供である彼女たちの身にも容赦なしにやってきます。

施設のなかにいる子供たちは、生きてきて10年そこらですでに知っているのです。この世界は平等でもなんでもなく、希望をどこかに見出すのは極めて困難だと。

これは、遠い外国の気の毒な話だと思っていられるでしょうか。観客は「私は恵まれた国に生まれてよかった」と言っていられるでしょうか。

日本にだって、家庭に居場所のない子どもや、親からひどい扱いを受けた子供はいるし、貧困のなかで思うような進路も選べない子もいます。

そして問題を放置したツケは、単なる個人の貧困の問題になるだけでなく、必ず社会全体の問題になるでしょう。

国や地域、事情が違っているとしても、他人が背負った「痛み」への共感は普遍的ではないでしょうか。そして他者が持つ「痛み」と自分をつなぐのも、ひとつの想像力ではないでしょうか。

個々の「痛み」を生み出している背景への視線を、もう少し私も持っておきたいのです。

映画に映されている内容は重いのですが、彼女たちの境遇を通して、世の中そのものの罪を問う、そういう作品だと思います。

まとめ

「少女は夜明けに夢を見る」の映像を見ていて、語られる内容はつらいのですが、映像そのものはとてもきれいだと思いました。

窓辺に立つ少女や、いっしょに食事をしている仕草など、少女たちの表情や姿を丁寧に追った作品です。

ドキュメンタリー作品はやや地味な印象があるし、大型エンターテインメント作品ほどの話題にはならないことが多いかもしれません。

私が見逃してきただけで、優れたドキュメンタリー作品も多いはずだし、もう少し劇場に足を運んで観てみようと思います。

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