「エーミールと三人のふたご」子供時代の終わりのものがたり

ハート形のクッキーとコーヒー 児童文学
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「エーミールと探偵たち」の続編にあたる本作。なつかしさのあまり、本を取りだして読んでしまいました。

1935年発表の作品ですが、今読んでも普遍的な子供の物語として楽しめます。大人になってから読み返すのもいいですよ。

「エーミールと三人のふたご」

著者:エーリヒ・ケストナー

翻訳:池田香代子

出版社:岩波書店

「エーミールと三人のふたご」あらすじ

貝殻

エーミールのために泥棒を捕まえる活躍から2年後の世界で、ふたたび少年たちがあつまります。

今回は教授くんの提案で、海辺の別荘でひと夏を過ごすという素晴らしい夏休みが始まります。

海辺のホテルで人気のアクロバット芸人のトリオをめぐって、事件が起こります。「三人のふたご」とは奇妙なタイトルですよね。そこに事件のきっかけがあります。

久しぶりに再会した少年たちは、どんな知恵を使うのか。そして、エーミールがとても悩んでいるお母さんの問題には、どう向き合うのか。

わくわくするお話と、じーんと感動するお話の両方の要素を持っています。

「エーミールと探偵たち」から2年後の世界

旅行

「エーミールと探偵たち」では、少年たちのチームワークでお金を盗んだ泥棒を追い詰め、少年エーミールの世界が広がる様子をユーモアたっぷりに描いていました。

続編にあたる「エーミールと三人のふたご」では、前作から2年後という設定になっています。

前よりちょっと大人っぽくなった少年少女たち。グスタフはいまやバイクに乗れるようになっているし、教授くんは前より大人びた性格になっています。

そして周りの大人たちも変わっていきます。一番大きな変化は、エーミールのお母さんに再婚の話が出てきたこと!

エーミールは父親を亡くして以来、母子家庭でした。エーミールは大きくなったらお金をたくさん稼いで、お母さんに楽をさせようと思っていました。

でも、新しいお父さんができたら、その役割はエーミールの役割ではなくなります。

内心では新しいお父さんが欲しいわけではない、しかしお母さんには幸せになってほしい、という葛藤を抱えたまま、エーミールは夏の休暇を過ごすために再びベルリンの友達のもとへ向かいます。今回の旅行は、ちょっと切ない始まりなのです。

大人になっていく子供たちを実感!

青い花

2年も経って、いろんなことが変わっていきます。少年たちはちょっと背が伸びて、大人の世界がもつ複雑さを知り始めます。

お母さんはどうして再婚を考えたのか、これからも僕を好きでいてくれるのか、エーミールは内心で苦しみます。

エーミールの悩みを聞いてくれるのは、教授くん。父親を欲しいと思っているわけではないのに、父親ができることになったエーミールに、「お母さんだって再婚することはあるよ」とアドバイスをくれます。

そしてもう一人、エーミールのおばあさん。おばあさんにしてみたら自分の娘が再婚することで、安心する部分と、孫のエーミールが悩んでいることの両方を抱えるわけです。

事件が終わってから、エーミールとおばあさんはいっしょに森へ行って、そこでお母さんからの手紙を見せてもらいます。

本当は再婚など考えていなかったこと、息子のエーミールを誰より愛していること。お母さんの本心を知って、エーミールは泣きます。

エーミールはお母さんの幸せを願い、お母さんはエーミールの将来や幸せを願っている。お互いに嘘をつき、これが相手のためだと信じている。つらい気持ちを隠している。

母と息子の間に流れる関係がなんともつらい、そして美しい。

「エーミールと3人のふたご」はエーミールたち少年たちの子供時代の終わりを告げている物語です。

ベルリンの町で無邪気に探偵を気取っていた時間が過ぎさり、もう大人になっていく時期が来ているのです。

おばあさんとの手紙を読んだときのことは、エーミールの大人への入り口なのです。

生きている間にいろんな秘密を抱えていくのは仕方のない面もあります。エーミールのお母さんのための嘘は、とても悲しくて切ない嘘です。

ケストナー作品には大人の描き方にも工夫がある

ハート

ケストナーが描く大人には、子供を裏切るようなあくどい大人もいれば、味方になってくれるような心の広い大人もいます。

今回、探偵少年たちが対立するのは、ふたごのうち1人を置き去りにしようとするアクロバット芸人。

念入りに計画を練っていたので、前作のように、悪い大人を、子供たちの機転で追い詰めるのかな、と思っていました。

今回はそうはいかず、探偵を気取る子供たちにもちょっと甘いところや失敗があり、せっかくの計画がうまく発動しません・・。このあたり、単に前作と同じ構図にはしない工夫かもしれないですね。

失敗をしかりながらも子供たちの未熟さを受け止めてくれるシュマウフ船長や、自主性を重んじてあえて距離を取ってくれる教授のお父さんなど、子供たちの成長ぶりを見届け、遠くから助けるタイプの大人たちもちゃんと出てきます。

そして、今作で最も印象深い大人といえば、エーミールのおばあちゃんでしょう。

これからの幸せのために、エーミールは母の再婚の話を受け入れるのか、それとも今まで通り母と子で暮らすのか。

いままで願ってきた本心とは違うとわかっていても、それを隠して、自分の心のどこかを犠牲にするのか。

エーミールは岐路に立たされ、そして選びます。おばあさんは孫・エーミールの成長をしっかりと見てくれる役割です。

のびのび動ける少年たちと、そばで見守る大人たちの両方のバランスがとてもよく、ケストナーの一種の理想が込められているのかもしれません。

まとめ:子供時代の終わりのものがたり

花束

私はかつて、小学生の時に本作を読んでいました。けっこうストーリーを忘れていて、エーミールがお母さんからの手紙を読むシーンだけ覚えていました。

久しぶりに読んでみて、とてもじんわりとした感動を覚えるシーンであることを再確認しました。

子供の心の中の悲しみや愛情、簡単に説明できない複雑な感情をしっかり描いていて印象深いのです。

単なる楽しいお話でもない、かなしいだけの話でもない。人生には複雑な感覚があるんだということを教えてくれた一冊でした。

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