小説「ゴルフ場殺人事件」は対立の軸が魅力になっている

ライトの光 ミステリー・サスペンス
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アガサ・クリスティーによる長編2作目にあたります。もともとは1923年にかかれた作品です。
早川書房から出ている小説は、2004年に刊行されたクリスティー文庫をさらに新訳にしています。

(ミステリーで大きなネタバレをするのは避けたいので、あんまり内容には踏み込んでないです。)

「ゴルフ場殺人事件」

著者:アガサ・クリスティー

翻訳:田村義進

早川書房 2011年

 

あらすじ

大富豪ルノーからポアロに届いた手紙には「助けて欲しい」という依頼が・・・。急いでフランスに向かったポアロとヘイスティングズ。

だが、到着したころにはすでに事件が起こっていた。パリ警視庁から名刑事として知られるジローが捜査に加わり、ポアロと対立する。ヘイスティングズが知り合った女性・シンデレラも関わって、事態は進んでいく。

面白い点:対立軸の設定について

ポアロ対ジロー

本作のなかではいくつかの対立の軸がありますが、やはり話を盛り上げるのは、主人公とそのライバルになる人物の対立です。

すでにベテランとして知られる探偵・ポアロと、フランスで名を知られた刑事・ジロー。ジローは現場から必要な情報や証拠をあれこれ調べるけど、ポアロは推理を重んじるタイプ。

手法が違うし、考えも違うから当然対立して火花を散らします。ジローの有能さを見せつつ、ポアロとの違いを描く点がいい。

ジロー刑事はかなり重要な物証を見つけ出す嗅覚と忍耐力を発揮しつつも、予断によって現実を見誤るという、有能なんだけど失敗するキャラ。ポアロとの対比が決まっています。

ポール・ルノーとマダム・ドーブルーユ

富豪ポール・ルノーは生前、かなりの金額を近所に住むマダム・ドーブルーユに支払っていました。これはいったい、何のためのお金だったのか。

さらにポールの息子であるジャックが結婚したい、と言い出したのはマダム・ドーブルーユの娘であるマルト。

ポール・ルノーとマダム・ドーブルーユという謎の多い人物の過去が実はつながっていた、という点をポアロが明らかにしていく点が面白い。

マルトとベラ

どちらもジャック・ルノーと恋愛関係にあった女性。どちらも健気にジャックを愛しているように見えるけど、実はそうではないことが最後に分かります。

小説版の残念な点

ゴルフ場という場所が舞台のはずですが、大富豪であるルノーが造成中だった、というくらいであんまり物語の舞台として生かしきれていない点はあります。

また、浮浪者の登場や、重大なことを盗み聞きされすぎているなど、ちょっとご都合主義っぽい点は気になります。けっこう偶然に頼った展開なので、そこはちょっと残念だな。

シンデレラという人物は重要ではあるものの、正体が明らかになるのはかなり後半になってからで、人物の魅力や必然性をあんまり感じない点もあります。

おまけ

もともと日本では2004年にクリスティー文庫の1冊として刊行された小説で、巻末には当時、ドラマ版のポアロを演じていた熊倉一雄さんの解説がついています。

熊倉さんはポアロの吹き替えを担当するにあたって、ポアロのベルギー人としての話し方をどう表現するのか、悩んだという話を書かれています。

英語にベルギー人のフランス語訛りが混じってくる。日本語でフランス語訛りをどう表現すればいいのか、すごくむずかしかったですね。

「ゴルフ場殺人事件」
著者:アガサ・クリスティー/翻訳:田村義進
早川書房/2011年  367ページ

ほかにも演技をするときに心がけていたことなど、興味深いエピソードが入っていました。ちょっとしたおまけとして、嬉しい解説でした。

まとめ

小説では、対比の軸がはっきりしている点は楽しく読めます。

ドラマ版「ゴルフ場殺人事件」 原作との比較を見てみる
イギリスで製作されたドラマ「ゴルフ場殺人事件」をあらためて見てみました。原作小説と比較してチェックしていくと、ドラマ向けに上手にアレンジされていると思います。

「ゴルフ場殺人事件」は1990年代にドラマ化されています。映像ではどんなアレンジになっているのか、見比べてみるのも面白いです。

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