フェルメールは日本でも人気のある画家ですね。かつてある美術館で「青いターバンの少女」(「真珠の耳飾りの少女」)を見られる機会があり、私も行ったことがあります。
すごい人出で、絵の前にだけ少し空間があき、その後ろは人が埋め尽くすといった状態でした。幸運にも、私もあの絵のなかの少女と目を合わせる機会を得たのでした。
一枚の絵の背後にはあまり知られていない、また埋もれていった製作プロセスがあるはずで、人気の高い「真珠の耳飾りの少女」の背後にあるドラマを描いた映画です。(実際にはモデルは不明らしいのですが、原作になった小説があるのです)
・美術やその歴史に興味がある
・フェルメールの絵画が好き
・歴史を題材にしたドラマが好き
といった方にお勧めの作品です。
「真珠の耳飾りの少女」
監督:ピーター・ウェーバー
主演:スカーレット・ヨハンソン/コリン・ファース/トム・ウィルキンソン
製作国:イギリス・ルクセンブルクの合作
製作年:2003年
「真珠の耳飾りの少女」あらすじ
画家フェルメールの家に住み込みで働くことになった使用人のグリート。画家のアトリエを掃除しているうちに、絵の美しさを通じてフェルメールと会話を交わすようになります。
次第にグリートの美しさに気づき、絵のモデルにしようとするフェルメール。一点の絵画の背後にあったかもしれない、愛憎まざりあったドラマを描きます。
グリートを演じるのは若いころのスカーレット・ヨハンソン。その美しさにも惹かれる作品です。
映画全体が絵画のような美しさ
17世紀のオランダの雰囲気や人々のたたずまい、暮らしぶりや美しい風景など、中世ヨーロッパの雰囲気が全体を通して維持されています。
どこか暗いイメージを保ちつつ、絵画の世界を再現したかのような美しい風景にも注目しました。
とりわけ、雪の降る様子は美しく、全編を通じて美意識がある作品です。
映画を見ている間に、その時代のなかに、見ている者も紛れ込んだような錯覚を味わえます。
登場人物の衣装や雰囲気にも注目してしまいます。フェルメールの「牛乳を注ぐ女」をイメージさせる女性が、女中として登場している点など登場する人物にも工夫があり、美術が好きな人には楽しい面もある作品です。
スカーレット・ヨハンソン演じるグリートの葛藤に注目
グリートは、登場人物のなかのだれよりもフェルメールの絵画への理解がある人物です。ただ、あくまで使用人であるグリート。
絵の美しさに気づき、美術への理解やセンスがあることを認められて主人に気に入られても、しょせん立場はとても弱いまま。
グリートの美しさ故に画家フェルメールが見とれているだけで、当然ながら画家の夫人からは嫉妬をかってしまう。
画家一家からの嫌がらせやパトロンからの暴力など、立場の弱い使用人としての位置に苦しみながら、次第にフェルメールのアシスタントそしてモデルになっていくグリート。
本作のなかでの最大の魅力は、グリートを演じているスカーレット・ヨハンソンの美しさと、モデルを務めるまでの気持ちの揺れや葛藤です。
夫人の持ち物である真珠のピアスをつけるまでの苦しみや葛藤。耳に穴をあけるために針を用意し、フェルメールに「やって」と告げるときの声。
ピアスホールを開けたときの肌の痛み。ひとつひとつが見ている者にもわずかな痛みをもたらすのです。
その痛みのあとに、真珠の耳飾りをつけてモデルとなる様子には、見とれるくらいの美しさがあります。
歴史の表に残るのは、基本的には作品だけです。背後にあったドラマや、完成に至るまでのプロセスは、埋もれてしまうケースも多いものです。
きっとたくさんのドラマやエピソードがそこにはあったはずで、のちの時代の人間でも想像をかきたてられることは確か。
実際の「真珠の耳飾りの少女」のモデルは今もって不明のようですが、作品の背景にあったかもしれないひとつの形として、美しいストーリーになっています。
単なる画家とモデルのラブストーリーではなくて、芸術を理解している者同士の交流みたいな点があり、そのプロセスが静かなドラマになっている点を評価したいと思います。
女同士の感情のドラマでもある
話の軸としてはグリートとフェルメールの関係がメインですが、一家のなかの女性たちの感情の絡み合いも印象深い作品です。
グリートに嫉妬する夫人、意地悪をする娘、グリートを見張っているような老婦人など。みなグリートには冷たく陰険ですが、それぞれの感情が交錯して、人間がもつ醜さや嫉妬なども重要な要素になっています。
婦人の母親である大奥様は、娘婿であるフェルメールがグリートをモデルにしていることを知っていました。娘の留守中にピアスを渡すなど、娘への裏切りともとれる行為をしています。これはなかなか複雑な心理があるシーンとして、印象深いシーンです。
フェルメールの画家としてのこだわりを知っていたのか、パトロンを失っては困るから画業に加担せざるを得なかったのか。
それぞれの立ち位置から一点の絵画に関わっていて、作品に奥行きをもたらすのです。
まとめ:美意識のある映画を見たい人におすすめ
画面の作りや光や色彩の美しさも印象深い作品なので、絵画のような雰囲気や美しさが好きな方は気に入るんじゃないかな。
約100分とコンパクトな作品なので、違う時代の雰囲気に浸りたいときに、じっくり見たくなる一作です。
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